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AIと著作権に関する考え方について
The document is primarily framed around protecting the intellectual property rights of creators and rights holders while balancing those rights against the need for fair use in AI development. The central concern is rights protection under copyright law, with secondary attention to enabling AI innovation and maintaining Japan's competitiveness in the AI field.
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AI と著作権に関する考え方について 令和6年3月 15 日 文化審議会著作権分科会法制度小委員会 ○ この文書(「本考え方」)は、生成 AI と著作権に関する考え方を整理し、周知すべく、文化審議会著作 権分科会法制度小委員会において取りまとめられたものである。 ○ 本考え方は、その公表時点における、本小委員会としての一定の考え方を示すものであり、本考え方 自体が法的な拘束力を有するものではなく、また現時点で存在する特定の生成 AI やこれに関する技 術について、確定的な法的評価を行うものではないことに留意する必要がある。 ○ 今後も、著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした具体的な事例の蓄積、AI やこれに関連 する技術の発展、諸外国における検討状況の進展等が予想されることから、引き続き情報の把握・収 集に努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくことを予定している。 1 目次 1.はじめに ........................................................................................................................... 2 (1)本考え方の取りまとめに至る経緯 ....................................................................................... 2 (2)本考え方の位置づけ・性質 ............................................................................................... 2 (3)著作権法以外の分野における生成 AI についての検討との関係 ................................................ 3 2.検討の前提として ............................................................................................................... 4 (1)従来の著作権法の考え方との整合性について ....................................................................... 4 (2)AI と著作権の関係に関する従来の整理 .............................................................................. 7 3.生成 AI の技術的な背景について ......................................................................................... 11 (1)生成 AI について .......................................................................................................... 11 (2)生成 AI に関する新たな技術 .......................................................................................... 12 (3)AI 開発事業者・AI サービス提供事業者による技術的な措置について ...................................... 13 4.関係者からの様々な懸念の声について .................................................................................. 14 (1)クリエイターや実演家等の権利者の懸念 ............................................................................ 14 (2)AI 開発事業者・AI サービス提供事業者等の事業者の懸念 ................................................... 15 (3)AI 利用者の懸念 ........................................................................................................ 16 5.各論点について ............................................................................................................... 17 (1)開発・学習段階 ............................................................................................................ 17 (2)生成・利用段階 ........................................................................................................... 32 (3)生成物の著作物性について ............................................................................................ 39 (4)その他の論点について .................................................................................................. 41 6.おわりに ........................................................................................................................ 42 ○ 開催状況 ...................................................................................................................... 44 ○ 委員名簿 ...................................................................................................................... 45 2 1.はじめに (1)本考え方の取りまとめに至る経緯 昨今、インターネットの普及や、コンピューターの計算能力の向上などの情報技術の進展に伴 い、AI 技術の開発が加速し、AI 技術により実現できる計算処理の高度化が見られてきた。 また、AI 技術の高度化においては、特にいわゆる生成 AI と言われる、利用者の指示に基づ き、様々な形態のコンテンツを生成する AI についても発展が目覚ましく、人間が自らの手で作 成したものと見まがうようなコンテンツを生み出すことが可能となってきた。それらの生成 AI に ついて、開発に携わる研究者や事業者だけでなく、一般ユーザーが容易に利用できるサービス やソフトウェアを提供する事業者も現れ、また、生成 AI の利用を中心に据え、創作活動を行う クリエイターも出てきた。 このような中、生成 AI を巡っては、著作権者等からの AI によるデータの学習及び生成に当 たって、著作権が侵害されるのではないかといった懸念の声や、AI 開発事業者等からの AI 開 発に当たって著作権を侵害するのではないか、また、著作権を侵害するような AI を作ってしま うのではないかといった懸念の声、AI 利用者からの AI を利用することで、意図せず著作権を 侵害してしまうのではないかといった懸念の声などが上がってきた。 また、2023 年5月に行なわれた G7 広島サミットにおいて、国や分野を超えてますます顕著 になっている生成 AI の機会及び課題について直ちに評価する必要性の認識が示され、著作権 を含む知的財産権の保護等のテーマを含めた生成 AI に関する議論を行うため、G7 の作業部 会を通じた、「広島 AI プロセス」がスタートした1。さらに、国内でも、同月に有識者による AI 戦 略会議において取りまとめられた「AI に関する暫定的な論点整理2」の中で、著作権についても 論点を整理し、必要な対応を検討することとされた。 また、6月に取りまとめられた「知的財産推進計画 20233」においても、生成 AI と著作権との 関係について、AI 技術の進歩の促進とクリエイターの権利保護等の観点に留意しながら、具体 的な事例の把握・分析、法的考え方の整理を進め、必要な方策等を検討することとされている。 (2)本考え方の位置づけ・性質 著作権法は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送(著作物等)について、著作者 の権利及びこれに隣接する権利(著作権等)といった、私人の間における権利・義務関係を規定 する法である。 そのため、生成 AI に関するものに限らず、著作権法の解釈は、行政規制のように行政がそ の執行に当たって何らかの基準を示すといった性質のものではなく、本来、個別具体的な事案 に応じた司法判断によるべきものである。 1 https://www.mofa.go.jp/mofaj/files/100507034.pdf 2 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/2kai/ronten.pdf 3 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/kettei/chizaikeikaku_kouteihyo2023.pdf 3 しかしながら、生成 AI と著作権の関係を直接的に取り扱った判例及び裁判例は、この「AI と 著作権に関する考え方について」(以下「本考え方」という。)公表の時点で未だ乏しいところ、上 記のような生成 AI と著作権の関係に関する懸念を解消するためには、判例及び裁判例の蓄積 をただ待つのみでなく、解釈に当たっての一定の考え方を示すことも有益であると考えられる。 生成 AI と著作権の関係については、民間の当事者間におけるガイドラインの策定などによって 考え方が整理されることが望まれるが、こうした民間における対応も未だ途上であるところ、社 会における生成 AI の急速な普及と相伴って生成 AI と著作権の関係に関する懸念の声が社会 に広がる中で、このような懸念の解消が可能な限り迅速に図られる必要があった。 そこで、文化審議会著作権分科会法制度小委員会(以下「本小委員会」 という。)においては、 クリエイターや実演家等の権利者、生成 AI の開発・サービス提供等を行う事業者、生成 AI の 利用者といった関係者からのヒアリング等を行い、また、AI 戦略会議4、AI 時代の知的財産権 検討会5(内閣府知的財産戦略推進事務局)等の他の会議体における検討状況も踏まえ、AI と 著作権法の関係における現行法の適用関係などに関する各論点について議論を行った。 本考え方は、上記のような生成 AI と著作権の関係に関する懸念の解消を求めるニーズに応 えるため、生成 AI と著作権の関係に関する判例及び裁判例の蓄積がないという現状を踏まえ て、生成 AI と著作権に関する考え方を整理し、周知すべく取りまとめられたものである。本考 え方は、関係する当事者が、生成 AI との関係における著作物等の利用に関する法的リスクを 自ら把握し、また、生成 AI との関係で著作権等の権利の実現を自ら図るうえで参照されるべき ものとして、本考え方の公表時点における本小委員会としての一定の考え方を示すものである ことに留意する必要がある。 なお、本考え方は、上記のとおり生成 AI と著作権の関係についての一定の考え方を示すも のであって、本考え方自体が法的な拘束力を有するものではなく、また現時点で存在する特定 の生成 AI やこれに関する技術について、確定的な法的評価を行うものではない。個別具体的 な生成 AI やこれに関する技術の法的な位置づけの説明については、これを提供する事業者等 において適切に行われることが望まれる。 (3)著作権法以外の分野における生成 AIについての検討との関係 生成 AI をはじめとした AI と社会との関わりに関する検討は、著作権法以外の分野において も多数行われている6。本考え方は、あくまで AI と著作権法との関係について、解釈に当たって の一定の考え方を示すものであり、AI と社会との関わりに関する網羅的な検討を行うものでは ない。著作権法の枠組みを超える観点については、他の分野において行われている検討を参照 する必要がある。 4 https://www8.cao.go.jp/cstp/ai/ai_senryaku/ai_senryaku.html 5 https://www.kantei.go.jp/jp/singi/titeki2/ai_kentoukai/kaisai/index.html 6 一例として、上記の AI 戦略会議及び AI 時代の知的財産権検討会における検討が行われているほか、総務 省及び経済産業省においては、AI 関係の事業者向けの統一的なガイドラインとして「AI 事業者ガイドライン」 の取りまとめに向けた検討が行われている。 4 2.検討の前提として (1)従来の著作権法の考え方との整合性について 我が国の著作権法は、著作物並びに実演、レコード、放送及び有線放送(以下「著作物等」 という。)の公正な利用に留意しつつ、著作者等の権利の保護を図り、もって文化の発展に寄 与することを目的としている(著作権法(以下特記ない限り、単に「法」という。)第1条)。この 目的を受けて、著作権法では、「著作者等の権利・利益の保護」と「著作物等の公正・円滑な 利用」とのバランスを踏まえた制度設計がされている。 AI と著作権の問題を考えるにあたっては、こうした目的及びバランスを踏まえて整備されて いる既存の著作権法、及びその解釈に関する従来の考え方との整合性を考慮した上で検討 することが必要であり、特に、AI の開発や利用についての議論が、人が AI を使わずに行う 創作活動についての考え方と矛盾しないように留意する必要がある。 人と AI との関係については、上記1の広島 AI プロセスにおいて「人間中心主義」や「信頼 できる人間中心の AI の責任あるスチュワードシップ」が謳われていることや7、我が国の「人 間中心の AI 社会原則」においても「人間中心の原則」が示されているように8、人が AI を高 度な道具として補助的に用いることが原則と考えられる。本考え方においても、人が道具とし て AI を使用するものであり、これに伴う行為の責任は AI を道具として用いる人に帰属する ということを前提としている。 このような観点から、既存の著作権法の制度内容及びその解釈に関する従来の考え方の うち、特に以下の点について、AI と著作権の関係についての各論点の検討の前提として確認 する必要があると考えられる。 ア 著作権法で保護される著作物の範囲 イ 著作権法で保護される利益 ウ 権利制限規定の考え方 エ 我が国の著作権法が適用される範囲 ア 著作権法で保護される著作物の範囲 ○ 著作権法で保護される「著作物」について、法第2条第1項第1号では「思想又は感 情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するも のをいう。」と定義されている。 ○ このような定義から、著作物となるための要件としては①思想又は感情を、②創作 的に、③表現したものであり、かつ、④文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するも 7 「高度な AI システムを開発する組織向けの広島プロセス国際指針」及び「高度な AI システムを開発する組 織向けの広島プロセス国際行動規範」 (https://www.soumu.go.jp/hiroshimaaiprocess/documents.html) 8 「人間中心の AI 社会原則」(https://www8.cao.go.jp/cstp/aigensoku.pdf) 5 のであることが求められる。 ○ そのため、単なる事実やデータにとどまるもの(要件①を欠くもの)、誰が表現して も同じようなものとなるありふれた表現(要件②を欠くもの)、表現に至らないアイデ ア(要件③を欠くもの)、実用品等の文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属さないも の(要件④を欠くもの)は、著作物に該当せず、著作権法の保護対象に含まれない。 ○ このように、著作権法は、著作物に該当する創作的表現を保護し、思想、学説、作 風等のアイデアは保護しない(いわゆる「表現・アイデア二分論」)9。この理由として は、アイデアを著作権法において保護することとした場合、アイデアが共通する表現 活動が制限されてしまい表現の自由や学問の自由と抵触し得ること、また、アイデア は保護せず自由に利用できるものとした方が、社会における具体的な作品や情報の 豊富化に繋がり、文化の発展という著作権法の目的に資すること等が挙げられる。 イ 著作権法で保護される利益 ○ 著作権法では、著作物等を利用する行為の全てに対して著作者等の権利が及ぶと いう構成は採られておらず、複製、公衆送信、譲渡といった特定の利用形態(法定利 用行為)ごとに、複製権、公衆送信権、譲渡権といった「支分権」を規定し、その範囲 で著作者等の権利が及ぶという構成が採られている。 ○ 著作物等を利用する行為であっても、支分権が及ぶ法定利用行為に該当しない行 為(例えば、著作物等を閲覧・鑑賞する行為や、その内容を記憶する行為等)につい ては、著作権法上、著作者等の権利が及ばず、このような行為については、これを独 占する利益は著作権法上保護されていない。 ウ 権利制限規定の考え方 ○ 著作権法では、上記イのとおり、支分権の及ぶ法定利用行為については著作者等 の権利者がこれを行う権利を独占することとしており、このような法定利用行為を行 う場合は、権利者の許諾を得て行う必要があるのが原則である。その一方で、著作 権法では、一定の場合には権利者の許諾を得ることなく著作物等を利用できる旨 の、権利制限規定を設けている。これは、法第 1 条に規定する、文化的所産の公正 な利用という点に配慮したものである。 ○ こうした権利制限規定としては、AI と著作権の関係においてその適用があり得る、 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない利用(法第 30 条の4)や 電子計算機による情報処理及びその結果の提供に付随する軽微利用等(法第 47 条の5)のほか、私的使用のための複製(法第 30 条)、引用(法第 32 条第1項)、学 校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)、営利を目的としない上演等(法 第 38 条)といったものなどがあり、これらの権利制限規定の要件を満たす場合は、 9 我が国が加盟する「著作権に関する世界知的所有権機関条約」第2条においても、「著作権の保護は、表現さ れたものに及ぶものとし、思想、手続、運用方法又は数学的概念自体に及ぶものではない。」とされている。 6 権利者の許諾を得ることなく著作物等を利用することができる。 エ 我が国の著作権法が適用される範囲 (ア)準拠法決定の問題 ○ 著作物等の保護及び利用に関しては、我が国も加盟する「文学的及び美術的著作 物の保護に関するベルヌ条約」(以下「ベルヌ条約」という。)、「著作権に関する世界 知的所有権機関条約」、「実演家、レコード製作者及び放送機関の保護に関する国際 条約」等の国際条約による規律のもと、各国・各法域がそれぞれの著作権法を制定 している。 ○ そのため、著作物等の利用行為が国境を跨いで行われる場合、当該利用行為に、 いずれの国又は法域の著作権法が適用されるか検討する必要がある(準拠法決定 の問題)。 ○ 著作物等の利用行為に関する準拠法決定の問題については、特にコンテンツのイ ンターネット配信を含む、著作物等の公衆送信に関するものをはじめとして種々の見 解があり、今後も引き続き議論の状況を踏まえていく必要があるが、AI と著作権の 関係を検討するに当たっては、現時点での考え方として、差し当たり以下の点を確認 しておく必要があると考えられる。 (イ)準拠法決定の問題に関する規定及び考え方 ○ この点に関して、我が国に適用される法令及び条約、並びにこれに基づく我が国に おける国際私法の考え方に照らすと、準拠法決定の問題については以下のように考 えられる10。 ○ まず、著作権侵害に基づく損害賠償請求については、著作権侵害は民法上の不法 行為となることを踏まえ、法の適用に関する通則法(平成 18 年法律第 78 号)第 17 条の規定から11、原則として、加害行為の「結果発生地法」が準拠法となる。 ○ また、著作権侵害に基づく差止請求については、ベルヌ条約第5条第2項第3文の 規定から12、当該利用行為について実体法上の権利保護を与えている国の法令とし 10 なお、準拠法に関しては、当事者間(例:AI サービス提供事業者と AI 利用者との間)の契約(サービスの利 用規約等を含む)において、いずれの国の法を準拠法とするかに関する規定が設けられることがあるが、この ような契約上の準拠法の定めは、当該契約の当事者間においてのみ効力を有するものであり、例えば著作権 侵害の場面における権利者と契約外の第三者との関係については、本文記載の考え方によることとなる。 11 「不法行為によって生ずる債権の成立及び効力は、加害行為の結果が発生した地の法による。ただし、その地 における結果の発生が通常予見することのできないものであったときは、加害行為が行われた地の法によ る。」 12 「したがつて、保護の範囲及び著作者の権利を保全するため著作者に保障される救済の方法は、この条約の 規定によるほか、専ら、保護が要求される同盟国の法令の定めるところによる。」 7 ての「保護国法」が、当該利用行為についての準拠法となるとする考え方がある。 (ウ)具体的な利用行為に関する準拠法決定 ○ これらの規定及び考え方を踏まえると、ある著作権侵害の結果が発生した地が日 本国内であると評価される場合は、当該利用行為に伴う著作権侵害に基づく損害賠 償請求(及びその著作権侵害の成否に関する権利制限規定の適用)については、結 果発生地法としての我が国の著作権法が適用されると考えられる。 ○ また、ある利用行為が行われた地が日本国内であると評価される場合は、当該利 用行為に伴う著作権侵害に基づく差止請求(及びその著作権侵害の成否に関する 権利制限規定の適用)については、保護国法としての我が国の著作権法が適用され ると考えられる。 ○ 著作物等の利用行為に関する準拠法決定の問題は、最終的には個別・具体的な事 案に応じて、裁判所において判断されることとなるが、上記のような考え方を踏まえ ると、例えば、以下のような事情があることは、当該法律関係について、我が国の著 作権法が適用される可能性を高める一要素になると考えられる13。 ✓ 生成 AI の開発・学習段階において、AI 学習のための学習データ収集を行う プログラムが我が国内に所在するサーバー上で稼働しており、この収集に伴う既 存の著作物等の複製を行っていること ✓ 生成 AI の生成・利用段階において、生成 AI が我が国内に所在するサーバー 上で稼働しており、既存の著作物等を含む生成物を生成していること ✓ 生成 AI の生成・利用段階において、インターネット上で提供される生成 AI サ ービスが、我が国内のユーザーに向けて既存の著作物等を含む生成物を公衆 送信していること (2)AIと著作権の関係に関する従来の整理 著作権法では、技術革新とこれに伴う著作物等の新たな利用の態様に対応するため、種々 の制度改正を行ってきており、今般の AI と著作権の関係についての検討に当たっても、これ らの制度改正の経緯については前提として確認しておくことが必要である。 そこで、AI をはじめとした 技術革新に対応するこれまでの著作権制度の改正、特に法第 30 条の4の創設を中心に、以下の点を確認しておく必要があると考えられる。 ① 「柔軟な権利制限規定」の制定に至る背景と経緯 ② 法第 30 条の4の対象となる利用行為 ③ 「享受」の意義及び享受目的の併存 13 なお、この点に関しては、複製等の指令を端末への入力等により行った地、その指令による結果を一義的に 得た地、利用者の所在地が日本国内にある場合には、日本が利用行為地といえるとする見解も見られる。 8 ア 「柔軟な権利制限規定」の制定に至る背景と経緯 ○ 著作権法では、デジタル化・ネットワーク化の進展等に伴う著作物の利用環境の変化等 を受け、新しい時代に対応した制度等の在り方について随時検討を行い、これまでも権 利制限規定の整備等の法的措置が講じられてきた。 ○ 特に、今日では、デジタル化・ネットワーク化の更なる進展により、著作物の利用等を巡 る環境は更なる変化に直面している。具体的には、IoT・ビッグデータ・人工知能(AI)な どの技術革新とともに、情報の集積・加工・発信の容易化・低コスト化が進んだことを受 け、大量の情報を集積し、組み合わせ、解析することで付加価値を生み出す新しいイノベ ーションの創出が期待されている。 ○ こうした状況から、技術革新など社会の変化に対応できる適切な柔軟性を備えた権利 制限規定の在り方を検討することとなった。この検討の結果、平成 29 年4月の文化審議 会著作権分科会報告書においては、現在の我が国の諸状況を前提とすれば、米国のフェ ア・ユース規定のような非常に柔軟性の高い一般的・包括的な規定ではなく、明確性と柔 軟性の適切なバランスを備えた複数の規定の組合せによる「多層的」な対応を行うことが 適当であるとの判断がなされた。 具体的には、権利者に及び得る不利益の度合い等に応じて分類した3つの「層」につい て、それぞれ適切な柔軟性を確保した規定を整備することが適当であると考えられ、① 著作物の本来的利用には該当せず、権利者の利益を通常害さないと評価できる行為類 型(第1層)については、行為類型を適切な範囲で抽象的に類型化を行い、「柔軟性の高 い規定」を、②著作物の本来的利用には該当せず、権利者に及び得る不利益が軽微な行 為類型(第2層)については、権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性質に応じ、 著作物の利用の目的等によってある程度大くくりに範囲を画定し、「相当程度柔軟性の ある規定」を、③公益的政策実現のために著作物の利用の促進が期待される行為類型 (第3層)については、立法府において、権利制限を正当化する社会的意義等の種類や性 質に応じ、権利制限の範囲を画定した上で、それぞれの範囲ごとに「適切な柔軟性を備 えた規定」を、それぞれ整備するべきとされた。このうち第1層に対応するものとして設け られた規定のひとつが法第30条の4であり、また、第2層に対応するものとして設けられ たのが、法第47条の5である。 ○ 以上の経緯を経て、デジタル化・ネットワーク化の進展に対応した柔軟な権利制限規定 の整備を含む「著作権法の一部を改正する法律」が、平成 30 年5月 18 日に可決・成立 し、平成 30 年法律第 30 号として同月 25 日に公布された。その後、関連の政省令等 の整備を経て、平成 31 年1月1日に施行された。 9 図1 平成30年著作権法改正における「柔軟な権利制限規定」の整備の概要 (文化庁著作権課「著作権法の一部を改正する法律 概要説明資料」8頁) イ 法第30 条の4の対象となる利用行為 ○ 著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為については、著作物の表 現の価値を享受して自己の知的又は精神的欲求を満たすという効用を得ようとする者 からの対価回収の機会を損なうものではなく、著作権法が保護しようとしている著作権 者の利益を通常害するものではないと考えられるため、当該行為については原則として 権利制限の対象とすることが正当化できるものと考えられる。 ○ このため、法第 30 条の4では、著作物は、当該著作物に表現された思想又は感情を自 ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には、その必要と認められる限 度において、利用することができることとし、著作物に表現された思想又は感情の享受を 目的としない行為を広く権利制限の対象としている。 ○ 具体的には、プログラムの著作物のリバース・エンジニアリングや、美術品の複製に適し たカメラやプリンターを開発するために美術品を試験的に複製する行為や複製に適した 和紙を開発するために美術品を試験的に複製するといった行為は、著作物の視聴等を 通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用を得ることに向けられた行為 ではないものと考えられることから、「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」を目 的としない行為として、法第 30 条の4の適用対象となると考えられる。 10 ウ 「享受」の意義及び享受目的の併存 ○ 「享受」とは、一般的には「精神的にすぐれたものや物質上の利益などを、受け入れ味わ いたのしむこと」(新村出編(2017)広辞苑(第七版)岩波書店 762 頁)を意味することと されており、ある行為が法第 30 条の4に規定する「著作物に表現された思想又は感情」 の「享受」を目的とする行為に該当するか否かは、同条の立法趣旨及び「享受」の一般的 な語義を踏まえ、著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすと いう効用を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなる ものと考えられる。 ○ ある行為が法第 30 条の4に規定する「著作物に表現された思想又は感情」の「享受」 を目的とする行為に該当するか否かは、同条の立法趣旨及び「享受」の一般的な語義を 踏まえ、著作物等の視聴等を通じて、視聴者等の知的・精神的欲求を満たすという効用 を得ることに向けられた行為であるか否かという観点から判断されることとなるものであ り、「享受」を目的とする行為に該当するか否かの認定に当たっては、行為者の主観に関 する主張のほか、利用行為の態様や利用に至る経緯等の客観的・外形的な状況も含め て総合的に考慮されることとなる。 ○ 法第 30 条の4各号では、同条により権利制限の対象となる行為について法の予測可 能性を高めるため、柱書の「(その他の)当該著作物に表現された思想又は 感情を自ら 享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に当たる場合の典型的な例を示 している。ある著作物等を「情報解析の用に供する場合」については、同条第2号でこの 典型的な例として示されており、「当該著作物に表現された思想又は 感情を自ら享受し 又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。 ○ 他方で、法第 30 条の4では「享受」の目的がないことが要件とされているため、仮に主 たる目的が「享受」ではないとしても、同時に「享受」の目的もあるような場合には、同条 の適用はないものと考えられる。なお、「享受」の目的がある場合については、法第 47 条 の5が適用される場合もあると考えられる。 ○ 法第 47 条の 5 は、上記アのとおり、平成 30 年の著作権法改正において、柔軟な権 利制限規定の一つとして法第 30 条の4と同時に整備された規定である。 法第47条の5では、新たな知見・情報を創出する電子計算機による情報処理の結果の 提供に付随する軽微利用等について権利制限がされており、その対象となる行為として 「電子計算機による情報解析を行い、及びその結果を提供すること」(同条第1項第2号) が挙げられている。同条において定める権利制限の範囲は、当該著作物の「利用に供さ れる部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利用に供される際の表示の 精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限られる。 11 3.生成AIの技術的な背景について AI 技術は、半世紀以上前にその概念が提案されてから、現在まで、AI にかかわる様々な新技 術の開発が行われ、また、実用化され社会への普及が図られて来た。 そのような中、自然言語を用い、応答が返ってくる対話型の AI サービスが登場し、社会に大き なインパクトを与えるとともに、これらは、コンピューターに関する専門的な知識がなくとも扱えるこ とから、一般的なユーザーに急速に普及していった。 一方で、このような AI については、利用によるメリットだけでなく、様々なリスクも指摘されてい る。著作権侵害のリスクもこのようなリスクの一つとされているが、AI 開発事業者や AI サービス 提供事業者側においては、このような 著作権侵害が起きないよう、防止措置を講じているものも ある。 AI に関する技術は日進月歩であり、特に現在用いられ、又は今後新たに開発される生成 AI に 関する技術については、後掲4で示すような関係者からの懸念の解消に向けて、その仕組みや動 作機序について、その開発や提供を行う事業者等から分かりやすい形で社会に対する発信がさ れることが望ましい。ここでは、これらの技術について詳細に解説するのではなく、本考え方での 検討の前提として、著作権法における考え方の整理との関係で必要と思われる、現時点における 技術的な側面を概観することとする。 なお、今後、新技術の登場などによっては記載している内容が変わりうることに留意されたい。 (1)生成 AIについて ア 生成AIの概要 AI の主な用途には、画像識別や、自然言語処理、文章や画像の生成等があるが、昨今、特 に大きな話題となっているのが、人間の自然言語や画像などによる指示を受け、文章や画像 等の様々なコンテンツを生成する AI であり、これがいわゆる生成 AI14と言われるものであ る。 イ 生成AI の開発の概略 生成 AI の開発は、機械学習のうちの深層学習と言われる手法等により、大量かつ多様な データを情報解析し、データから読み取れる多数のパターンやルール、傾向等を学習させ、指 示に対して、的確な出力を予測できるように調整を行うことで進められる。 また、生成 AI を含む AI においては、その目的に応じて言語、画像等のデータを学習に用 いる必要があり、これらの学習に用いるデータの質及び量が、その性能の決定に大きな影響 を与えると言われている。 ウ 生成AIが生成物を生成する機序の概略 生成 AI では、入力された指示を情報解析し得られた結果と、その生成 AI が学習したパタ 14 「生成 AI」には明確な定義がなく、本考え方では本文記述の機能を有する AI を生成 AI と呼ぶこととする。 12 ーンやルール、傾向等に基づき、生成物を生成することとなる。この 際の生成については、本 小委員会の審議においてもヒアリング等を通じて確認したように、例えばテキストの生成にお いては、ある単語に続く単語の出現確率を計算することを繰り返すことで生成が行われてい るものであり、通常、学習データの切り貼りによって生成を行うものではないとされる15 。なお、 この生成の機序については、後掲4で示す関係者の懸念が大きいところであり、生成 AI の開 発や提供を行う事業者等から分かりやすい形で社会に対する発信がされることが望ましい。 エ 生成AIに関係する当事者 生成AIは、その開発・提供・利用の各場面において立場の異なる複数の者が当事者として 関係する。この当事者としては、以下のような者が想定される。なお、AI の開発・提供・利用の 態様によっては、同一の者が複数を兼ねる場合もある。 ①AI 開発事業者 生成 AI(学習済みモデル)の開発に向けた、学習データの収集、学習用データセットの構築、 及び学習用データセットを用いた AI 学習等の行為を行う者。主として事業者が想定される が、これに限るものではない。 ②AI サービス提供事業者 既存の生成 AI に対する追加的な学習、生成 AI を組み込んだソフトウェアやサービスの AI 利用者に対する提供等の行為を行う者。主として事業者が想定されるが、これに 限るもの ではない。 ③AI 利用者 生成 AI を組み込んだソフトウェアやサービスを利用して、コンテンツの生成及び生成物の 利用を行う者。事業者及び非事業者(個人利用者)のいずれも想定される。 (2)生成 AIに関する新たな技術 AI 技術の進展とともに、生成 AI に関する様々な新たな技術も登場してきた。著作権に特 に関係しうるものとしては、例えば、以下のようなものがある。 ①生成 AI の開発の際に用いられなかったデータであっても、生成 AI への指示と関連する データを検索・収集し、当該指示と合わせて生成 AI への入力として扱い、出力の予測を行 う技術16 ②生成 AI に対する追加的な学習17のうち、学習済みの生成 AI に小規模なデータセットを用 いて追加的な学習を行い、当該データセットに強い影響を受けた生成物の生成を可能とす る技術18 15 本小委員会第3回・資料2 有識者提出資料(国立研究開発法人情報通信研究機構) (https://www.bunka.go.jp/seisaku/bunkashingikai/chosakuken/hoseido/r05_03/) 16 例えば、検索拡張生成(RAG:Retrieval-augmented Generation)と言われる技術がある。 17 いわゆるファインチューニング等。 18 例えば、LoRA(Low Rank Adaptation)と言われる技術がある。 13 (3)AI開発事業者・AIサービス提供事業者による技術的な措置について すでにサービスが提供されている生成 AI においては、その生成物が著作権侵害になる場 合があるというリスクについて懸念の声があり、AI 開発事業者や AI サービス提供事業者の 中には、そのような リスクの低減のために、以下のような著作権侵害の防止に資する技術的 な措置を導入している事業者もいる。 ①現存するアーティストの氏名等を指定したプロンプト、又は既存の著作物と創作的表現が 共通した生成物を生成させようとするプロンプト等による生成指示を拒否する技術。 ②生成 AI の学習に用いるデータセットの作成のためのクローラによるウェブサイト内へのア クセスを拒否するために、機械可読な方法により施された技術的な制限措置を尊重する措 置。 ③生成 AI の学習に用いるデータセットに含まれているデータについて、権利者等から、将来 的な生成 AI の学習に用いる際には当該データを学習用データセットから削除する要求を 受け付け、実際に削除を行う措置。 14 4.関係者からの様々な懸念の声について いわゆる「柔軟な権利制限規定」が設けられた、平成 30 年の著作権法改正の検討時には、人 間の指示により自律的に生成物を生成する AI は既に存在していた19。しかしながら、生成 AI の 実社会における利用が進んでいく中で、著作権者等や、AI 開発事業者・AI サービス提供事業者、 AI の利用者等の様々な関係者から、具体的な AI 学習やサービス提供、AI による生成や生成物 の利用といった場面について、生成 AI の開発や利用により不利益を被っているといったものや、 どのような場合に著作権侵害となるのか不明確でリスクが大きいといったものなどの懸念の声が 上がるようになってきた。 これらの懸念の声については、生成 AI との関係性の違いにより、①クリエイターや実演家等の 権利者の懸念の声、②AI 開発事業者や AI サービス提供事業者等の事業者の懸念の声、③AI を創作活動に用いるクリエイターや、AI を事業活動に用いる企業・団体等を含む、AI 利用者の 懸念の声と、大きく3つの層に分類することができる。 本小委員会では、関係者の懸念の声を払拭する上では、それぞれの 懸念の声について、論点 を整理し、議論する必要があると考え、3つの層ごとの懸念の声と、これを分節した項目を以下の とおり整理した。 なお、以下については、関係者から上げられている懸念の声を可能な限り漏れなく収集したも のであり、示している懸念の声及び項目は、著作権法において整理可能又は整理すべきものに限 ったものではない。また、後掲する5.において、法的な観点からさらに詳細に論点を整理している ため、5.記載の論点との対応関係を、各項目の末尾において合わせて記載している。 (1)クリエイターや実演家等の権利者の懸念 ① 著作物等が AI 開発・学習に無断で利用されている ⚫ 法第 30 条の4の適用可否はどのように判断されるのか。(非享受目的とはどのような場 合か、ただし書に該当する場合はどのような場合か等)(⇒(1)ア・イ・ウ・エ・キ、(2) ク、 (4)) ⚫ AI 開発・学習のための複製等を防止する技術的な措置は、法的にどのように位置づけ られるか。(⇒(1)エ) ⚫ 法第 30 条の4以外に、AI 開発・学習のための複製等に適用され得る権利制限規定は あるか。(⇒(1)ウ・ク) ② 自らが時間をかけて創作した著作物等が、生成 AI により学習され、侵害物が大量に生成さ れ得ること ⚫ どのような場合に AI 生成物の生成又は利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性 19 例えば「知的財産推進計画 2016」においては「更なる技術革新により、人工知能によって自律的に生成され る創作物(以下「AI創作物」という。)や物の形状を完全に再現できる3Dデータ、センサー等から自動的に集積 されるデータベースなど新たな情報財が生まれてきている。」といった指摘がされている。 15 をどのように考えるのか。(⇒(2)イ・ウ・ケ) ⚫ 生成 AI により、侵害物がどの程度、またどのような場合に生成されるのか(侵害物の生 成確率・頻度、指示内容の影響の程度等)という点は、法的な議論にどのように影響する のか。(⇒(2)イ・キ) ⚫ 生成 AI が学習した著作物に類似・依拠した生成物が生成される場合、法第 30 条の4 の適用可否にはどのように影響するのか。(⇒(1)イ) ③ 生成 AI の普及により、既存のクリエイター等の作風や声といった、著作権法上の権利の対象 とならない部分(以下、「作風等」 という。)が類似している生成物が大量に生み出され得るこ と等により、クリエイター等の仕事が生成 AI に奪われること ④ AI 生成物が著作物として扱われ、大量に出回ることで、新規の創作の幅が狭くなり、創作活 動の委縮につながること ⚫ 作風等が類似している生成物の生成又は利用に、既存の著作物の著作権が働くか。(⇒ (2)イ、(4)) ⚫ 侵害物でない AI 生成物が市場に出回ることによるクリエイター等の創作活動への経済 的な不利益は、どのようなものが想定されるか。このような不利益が生じている場合、著 作権法で保護する利益を不当に害しているといえるのか。(⇒(1)エ、(4)) ⑤ 海賊版等、違法にアップロードされているものも学習されてしまうこと ⚫ 海賊版サイト上の違法にアップロードされている著作物を学習することは、当該著作物 に係る著作権侵害を助長する状況を生じさせるものといえるか。(⇒(1)エ) ⚫ 違法にアップロードされている著作物の学習を回避することは、技術的に可能か。また、 これを踏まえて、海賊版等、違法にアップロードされている著作物を学習することは著作 権者の利益を不当に害するといえるのか。(⇒(1)エ) (2)AI開発事業者・AIサービス提供事業者等の事業者の懸念 ① AI 開発や生成 AI を活用したサービス提供において、事業者・利用者ともに意図しないまま 著作権侵害を生じさせ、事業者が著作権侵害の責任を負ってしまうのではないか ⚫ AI 学習が著作権侵害となるのか。 ⚫ どのような場合に AI 生成物の生成又は利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性 をどのように考えるのか。【再掲】 ⚫ 依拠性の判断にあたり、当該著作物の学習の有無は影響するのか。(⇒(2)イ・ウ・コ) ⚫ 利用者による AI 生成物の生成又は利用が著作権侵害となる場合、事業者にも責任が 生じる場合があるのか。あるとすればどのような場合か。(⇒(2)オ) ⚫ 事業者が著作権侵害の責任を負わないためには、どのような 対策が考えられるか。(⇒ (2)キ) ⚫ 事業者が著作権侵害の責任を負うことになった場合、受け得る措置はどのようなものか。 生成 AI の利用の差止めや侵害の防止に向けた措置等を求められる可能性はあるか。 16 (⇒(1)オ・カ、(2)エ・カ・キ) ② 利用者が悪意をもって生成 AI を利用した場合に、AI 開発事業者や AI サービス提供事業 者として著作権侵害の責任を負うことになるのではないか ⚫ どのような場合に AI 生成物の生成又は利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性 をどのように考えるのか。【再掲】 ⚫ 事業者が著作権侵害の責任を負わないためには、どのような 対策が考えられるか。【再 掲】 (3)AI利用者の懸念 ① AI 生成物の生成・利用により意図せず著作権を侵害してしまうのではないか ⚫ どのような場合に AI 生成物の生成又は利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性 をどのように考えるのか。【再掲】 ② 生成 AI を利用していることにより、法的に著作権侵害とはならない場合についてまで、著作 権侵害であるとして非難を受けてしまう炎上リスク ⚫ どのような場合に AI 生成物の生成又は利用が著作権侵害となるのか。類似性、依拠性 をどのように考えるのか。【再掲】 ③ 努力せずに作品を作って世に出しているのではないかという同業からの冷評 ④ AI 生成物が著作物とならず、法的な保護の対象とならないのではないかという懸念 ⚫ AI 生成物が著作物となる要件(創作意図・創作的寄与)をどのように考えるか。(⇒(3) ア・イ) ⚫ AI 生成物について、著作権法以外による法的な保護は考えられるか。(⇒(3)ウ) 17 5.各論点について 著作権法の基本的な考え方と技術的な背景を踏まえ、生成 AI に関する懸念点について、以 下のとおり論点が整理できるのではないか。 (1)開発・学習段階 ア 検討の前提 (ア)平成30年改正の趣旨 ○ 近時の AI 開発においては、著作物を含む大量のデータを用いた深層学習等の手法が 広く用いられており、この 学習用データの収集・加工等の場面において、既存の著作物 の利用が生じ得る。こうした AI 開発のための学習を含む、情報解析の用に供するため の著作物の利用に関しては、法第 30 条の4において権利制限規定が設けられている (同条第2号)。 ○ 同条を含む「柔軟な権利制限規定」を創設した平成 30 年改正の趣旨としては、技術革 新により大量の情報を収集し、利用することが可能となる中で、イノベーション創出等の 促進に資するものとして、著作物の市場に大きな影響を与えないものについて個々の許 諾を不要とすることがあったといえる(文化庁著作権課「デジタル化・ネットワーク化の進 展に対応した柔軟な権利制限規定に関する基本的な考え方(著作権法第 30 条の4,第 47 条の4及び第 47 条の5関係)」(令和元年 10 月 24 日)(以下「基本的な考え方」と いう。)1頁) 。 ○ また、法第 30 条の4 は、このような「柔軟な権利制限規定」 の中でも特に、著作権者 の利益を通常害しないといえる場合を対象とするものである(「基本的な考え方」6頁) 。 ○ そのため、同条の要件を解釈するに当たっては、このような平成 30 年改正の趣旨や、 同条の規定の趣旨を踏まえて解釈する必要がある。 (イ)議論の背景 ○ 近時の生成 AI 技術の進展は著しく、また、その普及は事業者にとどまらず一般市民の 間にも広く進んでいる。このような状況の中で、法第 30 条の4の適用範囲等の、同条の 解釈が具体的に問われる場面も増加していることから、現時点では、特に生成 AI に関 する同条の適用範囲等について、再整理を図ることが必要である。 ○ この点に関して、法第 30 条の 4 は生成 AI のみならず、技術革新に伴う著作物の新 たな利用態様に柔軟に対応できる権利制限規定として設けられたものであり、 例えば、 生成 AI 以外の AI(認識、識別、人の判断支援等を行う AI)を開発する学習のための著 作物の利用、技術開発・実用化試験のための著作物の利用、プログラムのリバース・エン 18 ジニアリング等の行為も権利制限の対象とするものである。 ○ そのため、再整理を行うに当たっては、上記のように様々な技術革新に伴う著作物の 新たな利用態様が不測の悪影響を受けないよう留意しつつ、生成 AI 特有の事情につい て議論することが必要である。 (ウ)開発・学習段階における著作物の利用行為 ○ 生成 AI との関係において著作物が利用される場面を概観すると、大きく「開発・学習 段階」と「生成・利用段階」に分けられる。 ○ このうち、開発・学習段階においては、AI(学習済みモデル)作成のための学習や、生成 AI を用いたソフトウェア又はサービスの開発に伴って、次のような場面で著作物の利用 行為が生じることが想定される20。 ➢ AI 学習用データセット構築のための学習データの収集・加工(図2・複製①・③) ➢ 基盤モデル作成に向けた事前学習(図2・複製②) ➢ 既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(図2・複製④) ➢ 検索拡張生成(RAG)等において、生成 AI への指示・入力に用いるためのデータベ ースの作成(図3・複製⑤) 図2 事前学習・追加的な学習に伴う著作物の利用行為 (本小委員会第1 回・資料3をもとに作成) 20 下記のうち複製②及び④(学習用プログラムへの学習用データセットの入力に伴う複製)が生じるか否かは、 具体的な学習の態様による。 19 図3 生成 AIへの指示・入力に用いるためのデータベースの 作成に伴う著作物の利用行為 ○ そのため、これらの 場面における、それぞれの利用行為について、法第30条の4の適 用有無といった著作権法との関係を検討することが必要となる。 【「非享受目的」に該当する場合について】 イ 「情報解析の用に供する場合」と享受目的が併存する場合について (ア)「情報解析の用に供する場合」の位置づけについて ○ 法第 30 条の4柱書では、「次に掲げる場合その他の当該著作物に表現された思想又 は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合には」と規定し、その 上で、第2号において「情報解析(……)の用に供する場合」を挙げている。 ○ そのため、AI 学習のために行われるものを含め、情報解析の用に供する場合は、法第 30 条の4に規定する「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に 享受させることを目的としない場合」に該当すると考えられる。 (イ)非享受目的と享受目的が併存する場合について ○ 他方で、一個の利用行為には複数の目的が併存する場合もあり得るところ、法第 30 条の4は、「当該著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させる ことを目的としない場合には」と規定していることから、この複数の目的の内にひとつでも 「享受」の目的が含まれていれば、同条の要件を欠くこととなる21。 ○ そのため、ある利用行為が、情報解析の用に供する場合等の非享受目的で行われる場 21 なお、法第 30 条の4に規定する「享受」の対象について、同条では上記のとおり「当該著作物」と規定してい ることから、表現された思想又は感情の享受目的の有無が問題となるのは、同条による権利制限の対象となる 当該著作物(例:AI 学習のため複製等される学習用データ)についてであり、これ以外の他の著作物について 享受目的の有無が問題となるものではない。そのため、例えば、AI 学習を行う者が、生成 AI による生成物を 観賞して楽しむ等の目的を有していたとしても、これは権利制限の対象となる著作物に表現された思想又は感 情を享受する目的ではないことから、このような目的を有していたとしても、開発・学習段階における法第 30 条の4の適用が否定されるものではないと考えられる。 20 合であっても、この 非享受目的と併存して、享受目的があると評価される場合は、法第 30 条の4は適用されない22。 ○ 上記ア(ウ)に示したような生成 AI の開発・学習段階における著作物の利用行為にお ける、享受目的が併存すると評価される場合について、具体的には以下のような場合が 想定される23。 ➢ 〔上記複製③・④に関して〕既存の学習済みモデルに対する追加的な学習(そのため に行う学習データの収集・加工を含む)のうち、意図的に、学習データに含まれる著 作物の創作的表現の全部又は一部を出力させることを目的とした追加的な学習を 行うため、著作物の複製等を行う場合。 (例)AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者が、AI 学習に際して、いわゆる 「過学習」(overfitting)を意図的に行う場合 ➢ 〔上記複製⑤に関して〕既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに 含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を、生成 AI を用いて出力させること を目的として、これに用いるため著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを 作成する等の、著作物の複製等を行う場合(具体例については後掲(1)ウを参照)。 ○ これに対して、「学習データに含まれる著作物の創作的表現の全部又は一部を出力さ せる意図までは有していないが、少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著 作物の創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行う ため、著作物の複製等を行う場合」に関しては、具体的事案に応じて、学習データの著作 物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場 合は、享受目的が併存すると考えられる。他方で、学習データの著作物の創作的表現を 直接感得できる生成物を出力することが目的であるとは評価されない場合は、享受目的 が併存しないと考えられる。 ○ 近時は、特定のクリエイターの作品である少量の著作物のみを学習データとして追加 的な学習を行うことで、当該作品群の影響を強く受けた生成物を生成することを可能と する行為が行われており、このような行為によって特定のクリエイターの、いわゆる「作 風」を容易に模倣できてしまうといった点に対する懸念も示されている。 22 この点に関しては、AI 学習のための複製を行う事業者が、侵害物の生成を抑止するための実効的な技術的 手段を講じている場合、当該事業者の行う AI 学習のための複製が、非享受目的であることを推認させる事 情となり得る、といった意見があった。 23 なお、開発・学習段階における享受目的の有無は、開発・学習段階における利用行為の時点でどのような目 的を有していたと評価されるかという問題であることから、生成・利用段階における事情が直ちに開発・学習段 階における法第30条の4の適用の有無に影響するものではない。他方で、生成・利用段階における事情が、開 発・学習段階における利用行為の目的を認定する上での積極的な間接事実となることは、一般的な事実認定 の方法として当然に想定される。本文に記載の例も、生成・利用段階の事情が、開発・学習段階における享受 目的の存在を認定する上での積極的な間接事実として作用すると考えられる例を挙げているものである。 21 この点に関して、いわゆる「作風」は、これをアイデアにとどまるものと考えると、上記2. (1)アのとおり、「作風」が共通すること自体は著作権侵害となるものではない。 他方で、アイデアと創作的表現との区別は、具体的事案に応じてケースバイケースで判 断されるものであるところ、生成 AI の開発・学習段階においては、このような特定のクリ エイターの作品である少量の著作物のみからなる作品群は、表現に至らないアイデアの レベルにおいて、当該クリエイターのいわゆる「作風」を共通して有しているにとどまら ず、創作的表現が共通する作品群となっている場合もあると考えられる。このような場合 に、意図的に、当該創作的表現の全部又は一部を生成 AI によって出力させることを目 的とした追加的な学習を行うため、当該作品群の複製等を行うような場合は、享受目的 が併存すると考えられる。 また、生成・利用段階においては、当該生成物が、表現に至らないアイデアのレベルに おいて、当該作品群のいわゆる「作風」と共通しているにとどまらず、表現のレベルにおい ても、当該生成物に、当該作品群の創作的表現が直接感得できる場合、当該生成物の 生成及び利用は著作権侵害に当たり得ると考えられる。 ○ なお、開発・学習段階における享受目的の有無については、開発・学習段階における利 用行為の時点でどのような目的を有していたと評価されるかが問題となることから、 生 成・利用段階において、AI が学習した著作物と創作的表現が共通した生成物が生成さ れる事例があったとしても、 通常、このような事実のみをもって開発・学習段階における 享受目的の存在を推認することまではできず、法第 30 条の4の適用は直ちに否定され るものではないと考えられる。他方で、生成・利用段階において、学習された著作物と創 作的表現が共通した生成物の生成が著しく頻発するといった事情は、開発・学習段階に おける享受目的の存在を推認する上での一要素となり得ると考えられる24。 ウ 検索拡張生成(RAG)等について ○ 検索拡張生成(RAG)その他の、生成 AI によって著作物を含む対象データを検索し、 その結果の要約等を行って回答を生成する手法(以下「RAG 等」という。)については、 これを実装しようとする場合、開発・学習段階において、生成 AI 自体の開発に伴う学習 のための著作物の複製等のほかに、既存のデータベースやインターネット上に掲載され たデータに含まれる著作物の内容をベクトルに変換したデータベースを作成する等の行 為に伴う著作物の複製等が生じ得る(上記ア(ウ)・複製⑤)。 このような場合、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータが著作物 を含まないものであれば著作権法上の問題は生じない。また、既存のデータベースやイ ンターネット上に掲載されたデータに著作物が含まれる場合でも、RAG 等に用いられる データベースを作成する等の行為に伴う著作物の複製等が、回答の生成に際して、当該 24 なお、学習された著作物と創作的表現が共通した生成物の生成が頻発したとしても、これが、生成 AI の利 用者が既存の著作物の類似物の生成を意図して生成 AI に入力・指示を与えたこと等に起因するものである 場合は、このような事情があったとしても、AI 学習を行った事業者の享受目的の存在を推認させる要素とはな らないと考えられる(後掲(2)キも参照)。 22 データベースの作成に用いられた既存の著作物の創作的表現を出力することを目的と しないものである場合は、当該複製等について、非享受目的の利用行為として法第 30 条の4が適用され得ると考えられる。 他方、既存のデータベースやインターネット上に掲載されたデータに著作物が含まれる 場合であって、著作物の内容をベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う著作物 の複製等が、生成に際して、当該複製等に用いられた著作物の創作的表現の全部又は 一部を出力することを目的としたものである場合には、当該複製等は、非享受目的の利 用行為とはいえず、法第 30 条の4は適用されないと考えられる。 ○ 法第 30 条の 4 が適用されない場合でも、RAG 等による回答の生成に際して既存の 著作物を利用することについては、法第 47 条の5第1項第1号又は第2号の適用がある ことが考えられる。 ただし、この点に関しては、法第 47 条の5第1項に基づく既存の著作物の利用は、当 該著作物の「利用に供される部分の占める割合、その利用に供される部分の量、その利 用に供される際の表示の精度その他の要素に照らし軽微なもの」(軽微利用)に限って認 められることに留意する必要がある。また、同項に基づく既存の著作物の利用は、同項各 号に掲げる行為に「付随して」行われるものであることが必要とされているように、既存の 著作物の創作的表現の提供を主たる目的とする場合は同項に基づく権利制限の対象と なるものではない、ということにも留意する必要がある。 そのため、RAG 等による生成に際して、「軽微利用」の程度を超えて既存の著作物を 利用するような場合は、法第 47 条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾 を得て利用する必要があると考えられる25。 ○ また、RAG 等のために行うベクトルに変換したデータベースの作成等に伴う、既存の 著作物の複製又は公衆送信については、同条第2項に定める準備行為として、権利制限 規定の適用を受けることが考えられる。 【著作権者の利益を不当に害することとなる場合について】 エ 著作権者の利益を不当に害することとなる場合の具体例について (ア)法第30条の4ただし書の解釈に関する考え方について ○ 法第 30 条の4においては、そのただし書において「当該著作物の種類及び用途並びに 当該利用の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りで ない。」と規定し、これに該当する場合は同条が適用されないこととされている。 25 また、RAG 等とは異なる場面ではあるが、上記の「付随して」との要件に関して、情報処理の結果として新た な画像の生成を行う際に、既存の画像の創作的表現が当該新たな画像内に含まれる場合のように、法第 47 条の5第1項各号に掲げる行為と既存の著作物の利用が一体化しており、当該行為に「付随して」著作物を利 用するものとは評価できない場合には、法第 47 条の5第1項は適用されず、原則として著作権者の許諾を得 て利用する必要があると考えられる 23 ○ 本ただし書は、法第 30 条の 4 により権利制限の対象となる行為が、特定の場面に限 らず「著作物に表現された思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的 としない場合」を広く権利制限の対象とするものであり、柔軟性の高い規定となっている こと、技術の進展等により、現在想定されない新たな利用態様が現れる可能性もあるこ と、著作物の利用市場も様々存在することから、同条の権利制限の対象となる行為によ って著作権者の利益が不当に害されることがないよう 定めているもの( 加戸守行『著作 権法逐条講義 七訂新版』(公益社団法人著作権情報センター、2021 年)284 頁参照) とされている。 ○ この点に関して、本ただし書は、法第 30 条の4本文に規定する「当該著作物に表現さ れた思想又は感情を自ら享受し又は他人に享受させることを目的としない場合」に該当 する場合にその適用可否が問題となるものであることを前提に、その該当性を検討する ことが必要と考えられる。 ○ また、本ただし書への該当性を検討するに当たっては、著作権者の著作物の利用市場 と衝突するか、あるいは将来における著作物の潜在的販路を阻害するかという観点から、 技術の進展や、著作物の利用態様の変化といった諸般の事情を総合的に考慮して検討 することが必要と考えられる。 (イ)アイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成されることについて ○ 本ただし書において「当該著作物の」と規定されているように、著作権者の利益を不当 に害することとなるか否かは、法第 30 条の4に基づいて利用される当該著作物について 判断されるべきものと考えられる。 (例)AI 学習のための学習データとして複製等された著作物 ○ 作風や画風といったアイデア等が類似するにとどまり、既存の著作物との類似性が認め られない生成物は、これを生成・利用したとしても、既存の著作物との関係で著作権侵害 とはならない。 ○ 著作権法が保護する利益でないアイデア等が類似するにとどまるものが大量に生成さ れることにより、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、AI 生成物によって代替 されてしまうような事態が生じることは想定しうるものの、当該生成物が学習元著作物の 創作的表現と共通しない場合には、著作権法上の「著作権者の利益を不当に害すること となる場合」には該当しないと考えられる。他方で、この点に関しては、本ただし書に規定 する「著作権者の利益」と、著作権侵害が生じることによる損害とは必ずしも同一ではな く別個に検討し得るといった見解から、特定のクリエイター又は著作物に対する需要が、 AI 生成物によって代替されてしまうような事態が生じる場合、「著作権者の利益を不当 に害することとなる場合」に該当し得ると考える余地があるとする意見が一定数みられた。 また、アイデア等が類似するにとどまるものが 大量に生成されること 等の事情が、法第 30 条の4との関係で「著作権者の利益を不当に害することとなる場合」には該当しない 24 としても、当該生成行為が、故意又は過失によって第三者の営業上の利益や、人格的利 益等を侵害するものである場合は、因果関係その他の不法行為責任及び人格権侵害に 伴う責任の要件を満たす限りにおいて、当該生成行為を行う者が不法行為責任や人格 権侵害に伴う責任を負う場合はあり得ると考えられる(後掲(3)ウも参照)。 ○ なお、この点に関しては、アイデアと創作的表現との区別は、具体的事案に応じてケー スバイケースで判断されるものであり、上記イ(イ)のとおり、特定のクリエイターの作品 である少量の著作物のみを学習データとして追加的な学習を行う場合、当該作品群が、 当該クリエイターの作風を共通して有している場合については、これにとどまらず、創作 的表現が共通する作品群となっている場合もあると考えられる。このような場合には、追 加的な学習のために当該作品群の複製等を行うことにおいて享受目的が併存し得ること や、生成・利用段階において、生成物に当該作品群の創作的表現が直接感得でき、著作 権侵害に当たり得ることに配意すべきである。 (ウ)情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物の例について26 ○ 上記(ア)のとおり、本ただし書への該当性は諸般の事情を総合的に考慮して検討する ことが必要と考えられるが、本ただし書に該当すると考えられる例としては、「基本的な考 え方」(9頁)において、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータ ベースの著作物が販売されている場合に,当該データベースを情報解析目的で複製等 する行為」が既に示されている27。 ○ この点に関して、上記の例で示されている「大量の情報を容易に情報解析に活用でき る形で整理したデータベースの著作物」としては、DVD 等の記録媒体に記録して提供さ れるもののみならず、インターネット上でファイルのダウンロードを可能とすることや、デー タの取得を可能とする API(Application Programming Interface)の提供などに より、オンラインでデータが提供されるものも含まれ得ると考えられる。 ○ また、「当該データベースを(……)複製等する行為」に関しては、データベースの著作 権は、データベースの全体ではなくその一部分のみが利用される場合であっても、当該 一部分でも創作的表現部分が利用されれば、その部分についても及ぶ(前掲・加戸 142 26平成 30 年改正前の旧法第 47 条の7においては、権利制限の対象から除かれるものについて、同条ただし 書が「情報解析を行う者の用に供するために作成されたデータベースの著作物については、この限りでない。」 と限定的に規定していた。この点に関して、改正前に「権利制限の対象として想定されていた行為については 引き続き権利制限の対象とする立法趣旨」(参議院文教科学委員会附帯決議(平成30 年5月 17 日))に鑑 みれば、改正前に権利制限の対象であった行為(例:電子計算機による情報解析のための記録媒体への記 録)について、改正後の法第 30 条の4ただし書に該当するのは、情報解析を行う者の用に供するために作成 されたデータベースの著作物の場合に限定される、といった意見があった。 27 上記(ウ)及び後掲(エ)は、本ただし書に該当すると考えられる例として「基本的な考え方」で既に示している 「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」の例についての具体的な 考え方に関する記載であり、「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作 物」の例以外は本ただし書に該当しないといったことを必ずしも示唆するものではなく、この点は個別具体的な 事案に応じて判断される。 25 頁参照)とされている。 ○ これを踏まえると、例えば、インターネット上のウェブサイトで、ユーザーの閲覧に供する ため記事等が提供されているのに加え、データベースの著作物から容易に情報解析に 活用できる形で整理されたデータを取得できる API が有償で提供されている場合にお いて、当該 API を有償で利用することなく、当該ウェブサイトに閲覧用に掲載された記 事等のデータから、当該データベースの著作物の創作的表現が認められる一定の情報 のまとまりを情報解析目的で複製する行為は、本ただし書に該当し、同条による権利制 限の対象とはならない場合があり得ると考えられる28 29。 ○ この点に関しては、本ただし書の適用範囲が明確となることに資するよう、データベー スの著作物から容易に情報解析に活用できる形で整理されたデータを取得できる API が有償で提供されていること等の情報が、このような有償提供を行う権利者から事業者 等の関係者に対して提供されることにより、AI 開発事業者及び AI サービス提供事業者 においてこれらの事情を適切に認識できるような状態が実現されることが望ましい。 (エ)本ただし書に該当し得る上記(ウ)の具体例について(学習のための複製等を防止する技 術的な措置が施されている場合等の考え方) ○ 著作権法上の権利制限規定は、文化的所産の公正な利用に配慮して、著作権者の許 諾なく著作物を利用できることとするものである。また、こうした権利制限規定のうち、法 第 30 条の4は、「著作物に表現された思想又は感情の享受を目的としない行為につい ては、著作物の表現の価値を享受して自己の知的又は精神的欲求を満たすという効用 を得ようとする者からの対価回収の機会を損なうものではなく、著作権法が保護しようと している著作権者の利益を通常害するものではないと考えられるため、当該行為につい ては原則として権利制限の対象とすることが正当化できるものと考えられる」(「基本的な 考え方」6頁)との観点から立法されたものである。 ○ このような権利制限規定一般についての立法趣旨、及び法第 30 条の4の立法趣旨か 28 この点に関して、インターネット上のウェブサイトに掲載されたデータについては、AI 学習のための複製を行 うクローラによるウェブサイト内へのアクセスが、後述するウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述に より制限されていない場合、「(大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作 物が)販売されている場合」に該当しないことを推認させる要素となるものと考えられる。もっとも、この点に関 しては、AI 学習のための複製を行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスが、”robots.txt”への記述に より制限されていないという事情は、クローラによる AI 学習のための複製が著作権侵害となる場合に、当該 複製を行う者の過失を否定する要素となるにとどまるとの意見もあった。 29 API により提供されているのが「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの 著作物」に該当するか否か、及び、本ただし書に該当するか否かについては個別の事例に応じた検討が必要と なるが、具体例としては、学術論文の出版社が論文データについてテキスト・データマイニング用ライセンス及 び API を提供している事例や、新聞社が記事データについて同様のライセンス及び API を提供している事 例等がある。もっとも、テキスト・データマイニング用ライセンス及び API を提供しているとしても、当該 API が「大量の情報を容易に情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物」に当たるとは限らないと いった意見もあった。 26 らすると、著作権者が反対の意思を示していることそれ 自体をもって、権利制限規定の 対象から除外されると解釈することは困難である。そのため、こうした 意思表示があるこ とのみをもって、法第 30 条の4ただし書に該当するとは考えられない。 ○ 他方で、AI 学習のための著作物の複製等を防止するための、機械可読な方法による 技術的な措置としては、現時点において既に広く行われているものが見受けられる。こう した措置をとることについては、著作権法上、特段の制限は設けられておらず、権利者や ウェブサイトの管理者の判断によって自由に行うことが可能である。 (例)ウェブサイト内のファイル”robots.txt”への記述によって、AI 学習のための複製を 行うクローラによるウェブサイト内へのアクセスを制限する措置 (例)ID・パスワード等を用いた認証によって、AI 学習のための複製を行うクローラによ るウェブサイト内へのアクセスを制限する措置 ○ このような技術的な措置は、あるウェブサイト内に掲載されている多数のデータを集積 して、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物として販売する際に、 当該データベースの販売市場との競合を生じさせないために講じられていると評価し得 る例がある(データベースの販売に伴う措置、又は販売の準備行為としての措置)30。 ○ そのため、AI 学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置が講じられてお り、かつ、このような措置が講じられていることや、過去の実績(情報解析に活用できる形 で整理したデータベースの著作物の作成実績や、そのライセンス取引に関する実績等)と いった事実から、当該ウェブサイト内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理し たデータベースの著作物が将来販売される予定があることが推認される場合には31 、こ の措置を回避して、クローラにより当該ウェブサイト内に掲載されている多数のデータを 収集することにより、AI学習のために当該データベースの著作物の複製等をする行為は、 30 このような、AI 学習のための著作物の複製等を防止する技術的な措置と、情報解析に活用できる形で整理 したデータベースの著作物としての販売が併せて実施されている具体例としては、The New York Times (米国)が自社記事を掲載するウェブサイトの robots.txt において AI 学習データ収集用クローラをブロック し、別途、テキスト・データマイニング用ライセンス及び API を提供している事例や、Financial Times、The Guardian(いずれも英国)が同様の取組を行っている事例、Axel Springer(ドイツ)が傘下メディアの記事 を掲載するウェブサイトの robots.txt において AI 学習データ収集用クローラをブロックし、別途、OpenAI (米国)に対して AI 学習及び AI による要約等の生成に関する記事データのライセンスを提供している事例等 がある。 31 この点に関して、例えば、robots.txt において、あらゆる AI 学習用クローラをブロックする措置までは取ら れていないものの、ある AI 学習用クローラについてはこれをブロックする措置が取られているにとどまるとい った場合でも、主要な AI 学習用クローラが複数ブロックされているといった場合であれば、当該ウェブサイト 内のデータを含み、情報解析に活用できる形で整理したデータベースの著作物が将来販売される予定がある ことを推認させる一要素となると考えられる。この点に関しては、現状では robots.txt において、あらゆる種 類のクローラをブロックする措置は取り得ても、AI 学習用クローラに限ってこれらを全てブロックするという措 置は取ることができないという技術的限界があるところ、将来的には、AI 学習用クローラに限ってこれらを全 てブロックすることを可能にするような技術的方式が確立されること等により、AI 学習データ収集を行う者に とっての明確化が図られることが期待される。 27 当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為として、当該デー タベースの著作物との関係で、本ただし書に該当し、法第 30 条の4による権利制限の対 象とはならないことが考えられる32 33。 ○ この点に関しては、本ただし書の適用範囲についての判断を容易にするための一要素 として 、robots.txt での アクセス 制限 において 必要 となる クローラ の名称( User- agent)等の情報が事業者から権利者等の関係者に対して適切に提供されること、また、 特定のウェブサイト内のデータを含み情報解析に活用できる形で整理したデータベース の著作物が現在販売されていること及び将来販売される予定があること等の情報が、権 利者から事業者等の関係者に対して適切に提供されることにより、クローラにより AI 学 習データの収集を行おうとする AI 開発事業者及び AI サービス提供事業者においてこ れらの事情を適切に認識できるような状態が実現されることが望ましい。 ○ なお、上記のような技術的な措置が、著作権法に規定する「技術的保護手段」又は「技 術的利用制限手段」 に該当するか否かは、現時点において行われている技術的な措置 が、従来、「技術的保護手段」又 は「技術的利用制限手段」 に該当すると考えられてきた ものとは異なることから、今後の技術の動向も踏まえ検討すべきものと考えられる。 (オ)海賊版等の権利侵害複製物をAI学習のため複製することについて ○ インターネット上のデータが海賊版等の権利侵害複製物であるか否かは、究極的には 当該複製物に係る著作物の著作権者でなければ判断は難しく、AI 学習のため学習デー タの収集を行おうとする者にこの点の判断を求めることは、現実的に難しい場合が多い と考えられる。加えて、権利侵害複製物という場合には、漫画等を原作のまま許諾なく多 数アップロードした海賊版サイトに掲載されているようなものから、SNS 等において個人 のユーザーが投稿する際に、引用等の権利制限規定の要件を満たさなかったもの 等ま で様々なものが含まれる。 ○ このため、AI 学習のため、インターネット上において学習データを収集する場合、収集 対象のデータに、海賊版等の、著作権を侵害してアップロードされた複製物が含まれて いる場合もあり得る。 ○ 他方で、海賊版により我が国のコンテンツ産業が受ける被害は甚大であり、リーチサイ ト規制を含めた海賊版対策を進めるべきことは論を待たない。文化庁においては、権利 者及び関係機関による海賊版に対する権利行使の促進に向けた環境整備等、引き続き 32 この点に関しては、この措置を回避して行う AI 学習のための複製等であっても、当該データベースの著作 物の将来における潜在的販路を阻害する行為に当たるとは限らない、また、これに当たると評価される場合で も、本ただし書に該当すると解することは適切でないといった意見もあった。 33 当該データベースの著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為に当たると評価される場合であって も、これに含まれる個々の著作物の将来における潜在的販路を阻害する行為に当たるとはいえず、当該個々 の著作物との関係で本ただし書に該当するわけではない、とする指摘があった。 28 実効的かつ強力に海賊版対策に取り組むことが期待される。 ○ AI 開発事業者や AI サービス提供事業者においては、学習データの収集を行うに際し て、海賊版を掲載しているウェブサイトから学習データを収集することで、当該ウェブサイ トへのアクセスを容易化したり、当該ウェブサイトの運営を行う者に広告収入その他の金 銭的利益を生じさせるなど、当該行為が新たな海賊版の増加といった権利侵害を助長 するものとならないよう 十分配慮した上でこれを行うことが求められる。この点に関して は、権利者が、これらの事業者等の関係者に対して、海賊版を掲載している既知のウェ ブサイトに関する情報をあらかじめ適切な範囲で提供することで、事業者においても海 賊版を掲載しているウェブサイトを認識し、これを学習データの収集対象から除外する 等の取り組みを可能とするなど、海賊版による権利侵害を助長することのない状態が実 現されることが望ましい。 ○ 特に、ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複製物を掲載していることを知りながら、当 該ウェブサイトから学習データの収集を行うといった行為は、厳にこれを慎むべきもので ある。この点に関して、生成・利用段階においては、後掲(2)キのとおり、既存の著作物の 著作権侵害が生じた場合、AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者も、当該侵害行 為の規範的な主体として責任を負う場合があり得る。この規範的な行為主体の認定に当 たっては、当該行為に関する諸般の事情が総合的に考慮されるものと考えられる。 ○ AI 開発事業者や AI サービス提供事業者が、ウェブサイトが海賊版等の権利侵害複 製物を掲載していることを知りながら、当該ウェブサイトから学習データの収集を行った という事実は、これにより開発された生成 AI により生じる著作権侵害についての規範的 な行為主体の認定に当たり、その総合的な考慮の一要素として、当該事業者が規範的な 行為主体として侵害の責任を問われる可能性を高めるものと考えられる(AI 開発事業 者又は AI サービス提供事業者の行為主体性について、後掲(2)キも参照)34 35。 ○ この点に関して、こうした海賊版等の権利侵害複製物を掲載するウェブサイトからの学 習データの収集は、少量の学習データを用いて、学習データに含まれる著作物の創作的 表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行うことを目的とし て行われる場合もあると考えられる。このような追加的な学習を行うことを目的として、 学習データの収集のため既存の著作物の複製等を行う場合、開発・学習段階において 34 この点に関して、ある複製物が海賊版等の権利侵害複製物である旨の通知を権利者から受ける等して、AI 学習のための複製を行う AI 開発事業者や AI サービス提供事業者が、当該複製物が海賊版等の権利侵害 複製物である旨の認識を有するに至った場合、当該複製物を AI 学習に用いた生成 AI の開発・提供におい て、当該事業者が当該複製物に係る著作物の創作的表現が出力されることを防止する技術的な措置を何らと らない場合は、これにより開発された生成 AI により生じる著作権侵害についての規範的な行為主体の認定に 当たり、当該事業者が規範的な行為主体として侵害の責任を問われる可能性が高まる、といった意見があっ た。 35 また、当該複製物が海賊版等の権利侵害複製物である旨の認識を有しながら、又はその認識を有しないが 通常有するべきであったにもかかわらず、海賊版等の権利侵害複製物である当該複製物を AI 学習に用いる ため著作物の複製等を行った場合、本ただし書への該当可能性を高める要素となる、といった意見があった。 29 は上記イ(イ)のとおり、具体的事案に応じて、学習データの著作物の創作的表現を直接 感得できる生成物を出力することが目的であると評価される場合は、享受目的が併存す ると考えられるが36、これに加えて、生成・利用段階においては、これにより追加的な学習 を経た生成 AI が、当該既存の著作物の創作的表現を含む生成物を生成することによ る、著作権侵害の結果発生の蓋然性が認められる場合があると考えられる。 ○ そのため、海賊版等の権利侵害複製物を掲載するウェブサイトからの学習データの収 集を行う場合等に、事業者において、このような、少量の学習データに含まれる著作物の 創作的表現の影響を強く受けた生成物が出力されるような追加的な学習を行う目的を 有していたと評価され、当該生成 AI による著作権侵害の結果発生の蓋然性を認識しな がら、かつ、当該結果を回避する措置を講じることが可能であるにもかかわらずこれを 講じなかったといえる場合は、当該事業者は著作権侵害の結果発生を回避すべき注意 義務を怠ったものとして、当該生成 AI により生じる著作権侵害について規範的な行為 主体として侵害の責任を問われる可能性が高まるものと考えられる。 【侵害に対する措置について】 オ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習を行った事業者が受け得る措置につい て ○ 享受目的が併存する、又はただし書に該当する等の理由で法第 30 条の4が適用され ず、他の権利制限規定 も適用されない場合、権利者 からの許諾が得られない限り、AI 学習のための複製は著作権侵害となる。 ○ この場合、AI 学習のための複製を行った者が受け得る措置としては、損害賠償請求 (民法第 709 条)、差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求(法第 112 条第1項)、侵 害の停止又は予防に必要な措置の請求(同条第2項))、刑事罰(法第 119 条)等が規定 されている。 ○ なお、損害賠償請求についてはその要件として故意又は過失の存在が、刑事罰につい ては故意の存在が必要となる。 カ AI学習に際して著作権侵害が生じた際に、権利者による差止請求等が認められ得る範 囲について (ア)将来の AI学習に用いられる学習用データセットからの除去の請求について ○ AI 学習に際して著作権侵害が生じた際は、上記(1)オのとおり、AI 学習のための複製 を行った者に対し、侵害行為の差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求(法第 112 条 第1項)及び侵害の停止又は予防に必要な措置の請求(同条第2項))が考えられる。 36 上記イ(イ)のとおり、他方で、学習データの著作物の創作的表現を直接感得できる生成物を出力することが 目的であるとは評価されない場合は、享受目的が併存しないと考えられる。 30 ○ このうち、将来の侵害行為の予防に必要な措置の請求は、将来において侵害行為が生 じる蓋然性が高いといえる場合に、あらかじめこれを 防止する措置を請求できるとする ものである。そのため、著作権侵害の対象となった当該著作物が、将来において AI 学習 に用いられることに伴って、複製等の侵害行為が新たに生じる蓋然性が高いといえる場 合は、当該 AI 学習に用いられる学習用データセットからの当該著作物の除去が、将来 の侵害行為の予防に必要な措置の請求として認められ得ると考えられる。 (イ)学習済みモデルの廃棄請求について ○ 法第 112 条第2項では、侵害の停止又は予防に必要な措置としての廃棄請求の対象と なるものとして「 侵害の行為を組成した物、侵害の行為によつて作成された物又は専ら 侵害の行為に供された機械若しくは器具」が規定されている。 ○ AI 学習により作成された学習済モデルは、学習に用いられた著作物の複製物とはいえ ない場合が多いと考えられ、「侵害の行為を組成した物」又は「侵害の行為によつて作成 された物」には該当しないと考えられる。また、通常、AI 学習により作成された学習済モ デルは、学習データである著作物と類似しないものを生成することができると考えられる ことから、「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」にも該当しないと考えられる。 そのため、AI 学習により作成された学習済モデルについての廃棄請求は、通常、認めら れないものと考えられる。 ○ 他方で、当該学習済モデルが、学習データである著作物と類似性のある生成物を高確 率で生成する状態にある等の場合37 は、学習データである著作物の創作的表現が当該 学習済モデルに残存しているとして、 法的には、当該学習済モデルが学習データである 著作物の複製物であると評価される場合も考えられ、このような場合は38 、「侵害の行為 を組成した物」又は「侵害の行為によつて作成された物」として、当該学習済モデルの廃 棄請求が認められる場合もあり得る。また、この場合は、当該学習済モデルが、学習デー タである著作物と類似性のある生成物の生成(すなわち複製権侵害を構成する複製)に 専ら供されたとして「専ら侵害の行為に供された機械若しくは器具」として廃棄請求が認 められる場合もあり得る39。 37 上記(1)イのように、学習データである著作物に表現された思想又は感情を享受する目的が併存していると いえる場合、このような目的の下で行われた AI 学習により作成された学習済モデルは、特に、学習データで ある著作物と類似性のある生成物を高確率で生成する状態となっており、「侵害の行為によつて作成された 物」等として、当該学習済モデルの廃棄請求が認められる場合も多くあると考えられる。 38 このように当該学習済モデルが学習データである著作物の複製物であると評価される場合でも、当該複製に ついて権利制限規定が適用される場合は、当該複製は著作権侵害とならない以上、廃棄請求等も認められな い。 39 AI 学習に際して著作権侵害が生じた際に、学習に用いられた特定の著作物による学習済モデルへの影響を 取り除く措置を請求することは、現時点では、その技術的な実現可能性や、技術的に可能としてもこれに要す る時間的・費用的負担の重さ等(例えば特定の学習データを学習用データセットから除去した状態で再度学習 済モデルの作成を行う場合、当初の学習と同程度の時間的・費用的負担が生じると考えられる。)から、通常、 このような措置の請求は認められないと考えられる。 31 【その他の論点について】 キ AI学習における、法第 30 条の4に規定する「必要と認められる限度」について ○ 法第 30 条の4では、「その必要と認められる限度において」といえることが、同条に基 づく権利制限の要件とされている。 ○ この点に関して、大量のデータを必要とする機械学習(深層学習)の性質を踏まえると、 AI 学習のために複製等を行う著作物の量が大量であることをもって、「必要と認められ る限度」を超えると評価されるものではないと考えられる。 ク 法第30 条の4以外の権利制限規定の適用について ○ 著作権法上の権利制限規定としては、上記の法第 30 条の4及び第 47 条の5のほか、 法第2章第3節第5款において複数の規定が設けられている。 ○ この点に関して、AI 学習のための著作物の複製等については、上記の法第 30 条の4 及び第 47 条の5以外にも、当該複製等を対象とする権利制限規定が適用される場合で あれば、権利者の許諾を得ることなく適法に行うことができる。 ○ 適用があり得ると考えられる権利制限規定としては、具体的には、私的使用目的の複 製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関における複製等(法第 35 条)が考えられ る。 ○ そのため、例えば、個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において AI 学習のために使用する目的で行う場合、AI 学習のための学習データの収集に伴う複 製は、法第 30 条の4の適用の有無に関わりなく、権利者の許諾を得ることなく適法に行 うことができると考えられる。 ○ なお、このように私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)に基づいて AI 学習のため の学習データの収集に伴う複製を行った場合は、法第 30 条の4に基づいて複製を行っ た場合と異なり、収集した学習データを AI 学習のためのデータセットとして第三者に譲 渡したり、公衆送信したりする行為には法第 30 条第1項の権利制限規定は適用されな い。このように、それぞれの権利制限規定において、権利者の許諾を得ることなく可能と されている行為が異なることには留意する必要がある40。 40 法第 30 条の4においては、非享受目的の利用であること等の同条の要件を満たす限り、譲渡や公衆送信を 含め、いかなる方法でも著作物を利用できることとされている。これに対して、法第 30 条第1項においては、 対象となる利用行為が複製に限定されている。 32 (2)生成・利用段階 ア 検討の前提 ○ 生成 AI により生成物を出力し、その生成物を利用する段階(以下、「生成・利用段階」 という。)では、生成物の生成行為(著作権法における複製等)と、生成物のインターネッ トを介した送信などの利用行為(著作権法における複製、公衆送信等)について、既存の 著作物の著作権侵害となる可能性があり、この場合においては、従前の人間が AI を使 わずに行う創作活動の際の著作権侵害の要件と同様に考える必要がある。 ○ 既存の判例41 では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両者が認められ る際に、著作権侵害となるとされている。生成 AI による生成物についても、その生成・利 用段階において、既存の著作物との類似性及び依拠性が認められれば、当該既存の著 作物の著作権者は、生成物の生成行為や利用行為が、既存の著作物の著作権侵害に当 たるとして、当該行為の差止請求や損害賠償請求を請求し得る。また、故意による著作 権侵害に対しては、刑事罰の適用があり得る。 ○ この点に関して、現在、生成 AI を利用した創作活動においては、開発の際に、AI 利用 者が知り得なかった著作物を含む大量のデータを用いている生成 AI を利用する場合も あり、このような利用は、AI 利用者が認識し得ない著作物に基づいたものを生成する可 能性もある。 ○ このように、AI 利用者が、自らが知りえない環境で開発された生成 AI を創作活動に 使っていることなど、人間が AI を使わずに行う創作活動と異なる点も踏まえ、生成・利 用段階における著作権侵害について、侵害が認められる場合の考え方や侵害に対する 差止請求や損害賠償請求、刑事罰といった受け得る措置、責任主体の考え方などについ て整理する必要がある。 【著作権侵害の有無の考え方について】 イ 著作権侵害の有無の考え方について ○ 上記アのとおり、既存の判例では、ある作品に、既存の著作物との類似性と依拠性の両 者が認められる際に、著作権侵害となるとされており、生成 AI を利用した場合にこれら が認められる場合については、以下のように考えられる。 (ア)類似性の考え方について ○ 類似性の有無は、既存の判例42 では、表現それ自体でない部分や表現上の創作性が ない部分について既存の著作物との同一性があるにとどまるものではなく、 既存の著作 物の表現上の本質的な特徴を直接感得することのできるものについて、 認められてきた。 41 最判昭和 53 年9月7日民集 32 巻6号 1145 頁〔ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件〕等 42 最判平成 13 年6月 28 日民集 55 巻4号 837 頁〔江差追分事件〕等 33 ○ AI 生成物と既存の著作物との類似性の判断についても、人間が AI を使わずに創作し たものについて類似性が争われた既存の判例と同様、既存の著作物の表現上の本質的 な特徴が感得できるかどうかということ等により判断されるものと考えられる。なお、ここ でいう「表現上の本質的な特徴」に具体的に当たるものについては、個別具体的な事例 に即し、判断されることに留意する必要がある43。 (イ)依拠性の考え方について ○ 依拠性の判断については、既存の判例・裁判例44 では、ある作品が、既存の著作物に 類似していると認められるときに、当該作品を制作した者が、既存の著作物の表現内容 を認識していたことや、同一性の程度の高さなどによりその有無が判断されてきた。特に、 人間の創作活動においては、既存の著作物の表現内容を認識しえたことについて、その 創作者が既存の著作物に接する機会があったかどうかなどにより推認されてきた。 ○ 一方、生成 AI の場合、その開発のために利用された著作物を、生成 AI の利用者が認 識していないが、当該著作物に類似したものが生成される場合も想定され、このような事 情は、従来の依拠性の判断に影響しうると考えられる。 ○ そこで、従来の人間が創作する場合における依拠性の考え方も踏まえ、生成 AI による 生成行為について、依拠性が認められるのはどのような場合か、整理することとする。な お、類似性及び依拠性が認められ著作権侵害となる場合でも、前記(1)オ及び後記(2) エのとおり、当該侵害によりどのような措置(差止請求・損害賠償請求・刑事罰)を受け得 るかは、行為者の故意又は過失の有無によることとなる。 ① AI 利用者が既存の著作物を認識していたと認められる場合 ✓ 生成 AI を利用した場合であっても、AI 利用者が既存の著作物(その表現内 容)を認識しており、生成 AI を利用して当該著作物の創作的表現を有するもの を生成させた場合は、依拠性が認められ、AI利用者による著作権侵害が成立す ると考えられる。 (例)Image to Image(画像を生成 AI に指示として入力し、生成物として画像 を得る行為) のように、既存の著作物そのものを入力する場合や、既存の 著作物の題号などの特定の固有名詞を入力する場合 ✓ この点に関して、既存の判例・裁判例においては、被疑侵害者の既存著作物へ のアクセス可能性、すなわち既存の著作物に接する機会があったことや、類似性 43表現とアイデアの区別は容易ではなく、AI による創作が容易になった現状においては、現状における技術の 進展も踏まえつつ、「表現上の本質的特徴」の範囲等、類似性の有無に関する判断をする必要があるという意 見もあった。 44 前掲・最判昭和 53 年9月7日民集 32 巻6号 1145 頁〔ワン・レイニー・ナイト・イン・トーキョー事件〕、東京地 判平成4年 11 月 25 日知的裁集 24 巻3号 854 頁〔土産物用のれん事件〕、東京地判平成 11 年3月 29 日 判時 1689 号 138 頁〔赤穂浪士事件〕等 34 の程度の高さ等の間接事実により、被疑侵害者が既存の著作物の表現内容を 認識していたことが推認されてきた。 ✓ このような既存の判例・裁判例を踏まえると、生成 AI が利用された場合であっ ても、権利者としては、被疑侵害者において既存著作物へのアクセス可能性が あったことや、生成物に既存著作物との高度な類似性があること等を立証すれ ば、依拠性があるとの推認を得ることができると考えられる。 ② AI 利用者が既存の著作物を認識していなかったが、AI 学習用データに当該著作物 が含まれる場合 ✓ AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識していなかったが、当該生 成 AI の開発・学習段階で当該著作物を学習していた場合については、客観的 に当該著作物へのアクセスがあったと認められることから、当該生成 AI を利用 し、当該著作物に類似した生成物が生成された場合は、通常、依拠性があったと 推認され、AI 利用者による著作権侵害になりうると考えられる。 ✓ ただし、当該生成 AI について、開発・学習段階において学習に用いられた著 作物の創作的表現が、生成・利用段階において生成されることはないといえるよ うな状態が技術的に担保されているといえる場合45 もあり得る。このような状態 が技術的に担保されていること等の事情から、当該生成 AI において、学習に用 いられた著作物の創作的表現が、生成・利用段階において出力される状態とな っていないと法的に評価できる場合には、AI 利用者において当該評価を基礎づ ける事情を主張することにより、当該生成 AI の開発・学習段階で既存の著作物 を学習していた場合であっても、依拠性がないと判断される場合はあり得ると考 えられる46。 ✓ なお、生成 AI の開発・学習段階で既存の著作物を学習していた場合において、 AI 利用者が著作権侵害を問われた場合、後掲(2)キのとおり、当該生成 AI を 開発した事業者においても、著作権侵害の規範的な主体として責任を負う場合 があることについては留意が必要である。 ③ AI 利用者が既存の著作物を認識しておらず、かつ、AI 学習用データに当該著作物 が含まれない場合 ✓ AI 利用者が既存の著作物(その表現内容)を認識しておらず、かつ、当該生成 45 具体的には、学習に用いられた著作物と創作的表現が共通した生成物が出力されないよう出力段階におい てフィルタリングを行う措置が取られている場合や、当該生成 AI の全体の仕組み等に基づき、学習に用いら れた著作物の創作的表現が生成・利用段階において生成されないことが合理的に説明可能な場合などが想定 される。 46 この点に関しては、開発・学習段階において学習に用いられた著作物を AI が過去に学習した以上、このよう な措置が取られていたとしても依拠性は否定されず、AI 利用者の過失が否定されるにとどまる、といった意見 があった。 35 AIの開発・学習段階で、当該著作物を学習していなかった場合は、当該生成AI を利用し、当該著作物に類似した生成物が生成されたとしても、これは偶然の一 致に過ぎないものとして、依拠性は認められず、著作権侵害は成立しないと考え られる。 ウ 依拠性に関するAI 利用者の主張と学習データについて ○ 依拠性が推認された場合は、被疑侵害者の側で依拠性がないことの主張の必要が生 じることとなるが、上記のイ②で確認したことの反面として、当該生成 AI の開発・学習段 階で当該既存の著作物を学習に用いていなかった場合、これは、依拠性が認められる可 能性を低減させる事情と考えられる。 そのため、AI 生成物と既存の著作物との類似性の高さ等の間接事実により依拠性が 推認される場合、被疑侵害者の側が依拠性を否定する上では、当該生成 AI の開発に 用いられた学習データに当該著作物が含まれていないこと等の事情が、依拠性を否定 する間接事実となるため、被疑侵害者の側でこれを主張することが考えられる。 【侵害に対する措置について】 エ 侵害に対する措置について ○ 著作権侵害が認められた場合、侵害者が受け得る措置としては、差止請求、損害賠償 請求及び著作権侵害に基づく刑事罰が考えられる。 ○ 差止請求については、故意及び過失の有無を問わず可能とされている。これに対して、 損害賠償請求については侵害者に故意又は過失が認められることが必要であり、また、 刑事罰が科せられるためには、侵害者に故意が認められることが必要である。 ○ そのうえで、侵害に対する措置としては、以下のように考えられる。 ○ AI 利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかったなどの事情により、著作 権侵害についての故意又は過失が認められない場合においては、著作権侵害が認めら れたとしても、受け得る措置は、差止請求に留まり、刑事罰や損害賠償請求の対象となる ことはないと考えられる。 ○ もっとも、AI 利用者が侵害の行為に係る著作物等を認識していなかった場合でも、AI 利用者に対しては、不当利得返還請求として、著作物の使用料相当額として合理的に認 められる額等の不当利得の返還が認められることがあり得ると考えられる。 オ 利用行為が行われた場面ごとの判断について ○ 生成・利用段階においては、生成と利用の場面それぞれで故意又は過失の有無につい て判断は異なり得ると考えられる。また、生成時の複製については権利制限規定の範囲 内であったとしても、生成物の譲渡や公衆送信といった利用時には、権利制限規定の範 囲を超える行為として、著作権侵害となる場合があるため留意が必要である。 カ 差止請求として取り得る措置について 36 ○ 生成 AI による生成・利用段階において著作権侵害があった場合、侵害の行為に係る 著作物等の権利者は、生成 AI を利用し著作権侵害をした者に対して、新たな侵害物の 生成及び、すでに生成された侵害物の利用行為に対する差止請求が可能と考えられる。 この他、侵害行為による生成物の廃棄の請求は可能と考えられる。 ○ また、後掲キにおいて示すように、AI 開発事業者が行為主体として著作権侵害の責任 を負う場合において、当該 AI 開発事業者に対しては、著作権侵害の予防に必要な措置 として、侵害物を生成した生成 AI の開発に用いられたデータセットが、その後も AI 開 発に用いられる蓋然性が高い場合には、当該データセットから、当該侵害の行為に係る 著作物等の廃棄を請求することは可能と考えられる。 ○ また、AI 開発事業者又は AI サービス提供事業者が行為主体として著作権侵害の責 任を負う場合において、侵害物を生成した生成 AI について、当該生成 AI による生成に よって更なる著作権侵害が生じる蓋然性が高いといえる場合には、当該 AI 開発事業者 又は AI サービス提供事業者に対して、当該生成 AI による著作権侵害の予防に必要な 措置を請求することができると考えられる。 ○ この点に関して、侵害の予防に必要な措置としては、当該侵害の行為に係る著作物等 の類似物が生成されないよう、例えば、①特定のプロンプト入力については、生成をしな いといった措置、あるいは、②当該生成 AI の学習に用いられた著作物の類似物を生成 しないといった措置等の、生成 AI に対する技術的な制限を付す方法などが考えられる 47。 【侵害行為の責任主体について】 キ 侵害行為の責任主体について ○ 既存の判例・裁判例上48 、著作権侵害の主体としては、物理的に侵害行為を行った者 が主体となる場合のほか、一定の場合に、物理的な行為主体以外の者が、規範的な行為 主体として著作権侵害の責任を負う場合がある(いわゆる規範的行為主体論)。 ○ AI 生成物の生成・利用が著作権侵害となる場合の侵害の主体の判断においては、物 理的な行為主体49 である当該 AI 利用者が著作権侵害行為の主体として、著作権侵害 の責任を負うのが原則である。他方で、上記の規範的行為主体論に基づいて、AI 利用 47 この点に関しては、著作権侵害の差止請求(侵害行為の停止又は予防の請求及び侵害の停止又は予防に必 要な措置の請求)を行う場合には、訴訟実務上、差止請求の対象の特定や、予防に必要なものとして求める措 置の特定といった、請求の具体的な特定方法については課題があるといった意見があった。 48 最判令和4年 10 月 24 日民集 76 巻6号 1348 頁〔音楽教室事件〕、最判平成 23 年1月 20 日民集 65 巻1号 399 頁〔ロクラクⅡ事件〕等 49 この点に関して、特に AI 生成物の生成については、事業者が物理的な行為主体だと評価できる場合もある ため、事案に応じて検討する必要がある、との意見があった。なお、このように事業者が物理的な行為主体と評 価される場合は、下記キ②、③に記載の技術的な手段が事業者によって施されていたとしても、これにより、当 該事業者が侵害主体だとする評価に影響するものではないと考えられる。 37 者のみならず、生成 AI の開発や、生成 AI を用いたサービス提供を行う事業者が、著作 権侵害の行為主体として責任を負う50場合があると考えられる。この点に関して、具体的 には、以下のように考えられる。 ① ある特定の生成 AI を用いた場合、侵害物が高頻度で生成される場合は、事業者が 侵害主体と評価される可能性が高まるものと考えられる。 ② 事業者が、生成 AI の開発・提供に当たり、当該生成 AI が既存の著作物の類似物を 生成する蓋然性の高さを認識しているにも関わらず、当該類似物の生成を抑止する 措置を取っていない場合、事業者が侵害主体と評価される可能性が高まるものと考 えられる。 ③ 事業者が、生成 AI の開発・提供に当たり、当該生成 AI が既存の著作物の類似物を 生成することを防止する措置を取っている場合、事業者が侵害主体と評価される可 能性は低くなるものと考えられる。 ④ 当該生成 AI が、事業者により上記の(2)キ③の手段を施されたものであるなど侵害 物が高頻度で生成されるようなものでない場合においては、たとえ、AI 利用者が既 存の著作物の類似物の生成を意図して生成 AI にプロンプト入力するなどの指示を 行い、侵害物が生成されたとしても、事業者が侵害主体と評価される可能性は低く なるものと考えられる。 【その他の論点】 ク 生成指示のための生成 AIへの著作物の入力について ○ 生成 AI に対して生成の指示をする際は、プロンプトと呼ばれる複数の単語又は文章 や、画像等を生成 AI に入力する場合があり、入力に当たっては、著作物の複製等が生 じる場合がある。 ○ この生成 AI に対する入力は、生成物の生成のため、入力されたプロンプトを情報解析 するものであるため、これに伴う著作物の複製等については、法第 30 条の4の適用が 考えられる。 ○ ただし、生成 AI に対する入力に用いた既存の著作物と類似する生成物を生成させる 目的で当該著作物を入力する行為は、生成 AI による情報解析に用いる目的の他、入力 した著作物に表現された思想又は感情を享受する目的も併存すると考えられるため、法 50 この点に関して、事業者が著作権侵害の行為主体と評価されない場合でも、AI 利用者による著作権侵害の 幇助者として、民法上の共同不法行為責任を負う場合が考えられる、との意見があった。なお、著作権侵害の 幇助者としての責任については、従来の判例上、行為主体が著作権侵害を生じさせる蓋然性が高いと客観的 に認められ、この蓋然性を幇助者において予見でき、侵害結果回避のための措置を講ずることが可能であっ たこと等の事情から、幇助者に一定の注意義務が認められるにもかかわらず、この注意義務を怠った場合等 に、当該責任が認められた事例がある(最判平成 13 年3月2日民集 55 巻2号 185 頁〔ビデオメイツ事件〕 等)。 38 第 30 条の4は適用されないと考えられる。 ケ 権利制限規定の適用について ○ 生成 AI の生成・利用段階においては、生成指示のための既存の著作物の複製等(プ ロンプト入力)や、既存の著作物に類似した生成物の生成、出力された既存の著作物に 類似する生成物の利用といった場面で、既存の著作物を利用することがあり得る。これ らの場合については、権利制限規定が適用され、権利者の許諾なく行うことができる場 合があると考えられる。 ○ 具体的には、私的使用目的の複製(法第 30 条第1項)、学校その他の教育機関におけ る複製等(法第 35 条)がある。また、企業・団体等の内部において、生成物を生成するこ とについては、生成物が既存著作物と類似している検討過程における利用(法第 30 条 の 3)の適用が考えられる。 ○ なお、特に、生成AIによる生成・利用段階については、生成段階と、利用段階の利用行 為それぞれについて、 権利制限規定の適用を検討する必要があり、その一方で権利制 限規定が適用される場合でも、他方では適用の範囲外となり、著作権者の許諾が必要と なる場合も想定される。そのため、それぞれの 利用行為について、権利制限規定の適用 の有無を検討することが必要である。 コ 学習に用いた著作物等の開示が求められる場合について ○ 生成 AI の生成物の侵害の有無の判断に当たって必要な要件である依拠性の有無に ついては、上記イ(イ)のとおり、当該生成 AI の開発・学習段階で侵害の行為に係る著作 物を学習していた場合には認められると考える。また、上記ウのとおり、AI 利用者におい ては、依拠性に関して、開発・学習段階で侵害の行為に係る著作物を学習していないと の主張を行うことが想定される。 ○ このような主張のため、事業者に対し、法第 114 条の 3(書類の提出等)や、民事訴訟 法上の文書提出命令(同法第 223 条第1項)、文書送付嘱託(同法第 226 条)等に基づ き、当該生成 AI の開発・学習段階で用いたデータの開示を求めることができる場合もあ る。もっとも、上記イのとおり、依拠性の立証については、データの開示を求めるまでもな く、既存の著作物との高度の類似性があることなどでも認められ得る。 39 (3)生成物の著作物性について ア 整理の前提及び整理することの意義・実益について ○ 著作権法上、「著作物」 は「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、 文芸、学 術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(法第2条第1項第1号)と定義されており、 AI 生成物が著作物に該当するかは、この著作物の定義に該当するか否かによって判断 される。 ○ また、「著作者」は「著作物を創作する者をいう。」(同項第2号)と定義されている。AI は法的な人格を有しないことから、この「 創作する者」には該当し得ない。そのため、 AI 生成物が著作物に該当すると判断された場合も、AI 自身がその著作者となるものでは なく、当該 AI を利用して「著作物を創作した」人が当該 AI 生成物(著作物)の著作者と なる。 ○ AI生成物の著作物性の整理については、AI生成物が著作権法による保護を受けるの かといった観点より、生成 AI を活用したビジネスモデルの検討に影響を与えうるほか、 AI 生成物を利用する際に著作権者に許諾をとる必要があるのかといった判断に影響を 与えうるものであり、その意義や実益はあると考える。 ○ なお、ある作品において、生成 AI を利用し作成されたものであることを示すウォーター マークが付されているなど、生成 AI を利用し作成されたものであることが明らかである ことや、作品の一部について著作物性が否定される要素があったとしても、 本考え方に おける著作物性の有無についての考え方が、当該作品全体の著作物性の有無について の考え方に影響するわけではないことに留意する必要がある。 ○ すなわち、人間による、ある作品の創作に際して、その一部分に AI 生成物を用いた場 合、以下で検討する AI 生成物の著作物性が問題となるのは、当該 AI 生成物が用いら れた一部分についてであり、仮に当該一部分について著作物性が否定されたとしても、 当該作品中の他の部分、すなわち人間が創作した部分についてまで著作物性が否定さ れるものではない。 イ 生成AI に対する指示の具体性と AI 生成物の著作物性との関係について ○ 生成 AI に対する指示の具体性と AI 生成物の著作物性との関係については、著作権 法上の従来の解釈における著作者の認定と同様に考えられ、共同著作物に関する既存 の裁判例等51に照らせば、生成 AI に対する指示が表現に至らないアイデアにとどまるよ うな場合には、当該 AI 生成物に著作物性は認められないと考えられる。 ○ また、AI 生成物の著作物性は、個々の AI 生成物について個別具体的な事例に応じて 判断されるものであり、単なる労力にとどまらず、創作的寄与があるといえるものがどの 51 共同著作物に関する判例・裁判例としては、最判平成5年3月 30 日判時 1461 号3頁〔智恵子抄事件〕、大 阪地判平成4年8月 27 日判時 1444 号 134 頁〔静かな焔事件〕等がある。 40 程度積み重なっているか等を総合的に考慮して判断されるものと考えられる。例として、 著作物性を判断するに当たっては、以下の①~③に示すような要素があると考えられる。 ① 指示・入力(プロンプト等)の分量・内容 ✓ AI 生成物を生成するに当たって、創作的表現といえるものを具体的に示す詳 細な指示は、創作的寄与があると評価される可能性を高めると考えられる。他方 で、長大な指示であったとしても、創作的表現に至らないアイデアを示すにとどま る指示は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。 ② 生成の試行回数 ✓ 試行回数が多いこと自体は、創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他 方で、①と組み合わせた試行、すなわち生成物を確認し指示・入力を修正しつつ 試行を繰り返すといった場合には、著作物性が認められることも考えられる。 ③ 複数の生成物からの選択 ✓ 単なる選択行為自体は創作的寄与の判断に影響しないと考えられる。他方で、 通常創作性があると考えられる行為であっても、その要素として選択行為がある ものもあることから、そうした行為との関係についても考慮する必要がある。 ○ また、人間が、AI 生成物に、創作的表現といえる加筆・修正を加えた部分については、 通常、著作物性が認められると考えられる。もっとも、それ以外の部分についての著作物 性には影響しないと考えられる。 ウ 著作物性がないものに対する保護 ○ 著作物性がないものであったとしても、 判例上、その複製や利用が、営業上の利益を 侵害するといえるような場合には、民法上の不法行為として損害賠償請求が認められ得 ると考えられる52。 52 この点に関しては、最判平成 23 年 12 月 8 日民集 65 巻 9 号 3275 頁〔北朝鮮事件〕において「ある著作 物が同条(注:著作権法第 6 条)各号所定の著作物に該当しないものである場合、当該著作物を独占的に利 用する権利は、法的保護の対象とはならないものと解される。したがって、同条各号所定の著作物に該当しな い著作物の利用行為は、同法が規律の対象とする著作物の利用による利益とは異なる法的に保護された利益 を侵害するなどの特段の事情がない限り、不法行為を構成するものではないと解するのが相当である。」と判 示されている。 41 (4)その他の論点について ○ 学習済みモデルから、学習に用いられたデータを取り除くように、学習に用いられたデ ータに含まれる著作物の著作権者等が求め得るか否かについては、現状ではその実現 可能性に課題があることから、将来的な技術の動向も踏まえて見極める必要がある。 ○ また、著作権者等への対価還元という観点からは、法第 30 条の4の趣旨を踏まえると、 AI 開発に向けた情報解析の用に供するために著作物を利用することにより、著作権法 で保護される著作権者等の利益が通常害されるものではないため、 対価還元の手段と して、著作権法において補償金制度を導入することは理論的な説明が困難であると考え られる。 ○ 他方、コンテンツ創作の好循環の実現を考えた場合に、著作権法の枠内にとどまらない 議論として、技術面や考え方の整理等を通じて、市場における対価還元を促進すること についても検討が必要であると考えられる。 ○ なお、著作物に当たらないものについて著作物であると称して流通させるという行為に ついては、著作物のライセンス契約のような取引の場面においてこれを行った場合、契約 上の債務不履行責任を生じさせるほか、取引の相手方を欺いて利用の対価等の財物を 交付させた詐欺行為として、民法上の不法行為責任を問われることや、刑法上の詐欺罪 に該当する可能性が考えられる。この点に関して、著作権法による保護が適切かどうか など、著作権との関係については、引き続き議論が必要であると考えられる。 42 6.おわりに ○ AI と著作権の関係については、今後、著作権侵害等に関する判例・裁判例をはじめとした 具体的な事例の蓄積、AI やこれに関連する技術の発展、諸外国における検討状況の進展等 が予想されることから、これらを踏まえて引き続き検討を行っていく必要がある。 ○ 本考え方は、その公表の時点における、AI と著作権に関する本小委員会としての考え方を 示すものであり、現時点において直ちに著作権法の改正を行うべきといった立法論をその内 容とするものではないが、今後も、特に以下のような点を含め、引き続き情報の把握・収集に 努め、必要に応じて本考え方の見直し等の必要な検討を行っていくこととする。 ① AI の開発や利用によって生じた著作権侵害の事例・被疑事例 ② AI 及び関連技術の発展状況 ③ 諸外国における AI と著作権に関する検討状況53 ○ 上記のうち、AI の開発や利用によって生じた著作権侵害の事例・被疑事例については、こ のような個別事案の集積がされることにより、今後、これに基づいたより精緻な法解釈の検討 が可能となるものであることから、 文化庁において設けられる各種の相談窓口等を通じて、 積極的な事案の集積に努めることが期待される。 ○ また、AIをはじめとする新たな技術への対応については、著作権法の基本原理や、法第30 条の4をはじめとする各規定の立法趣旨といった観点からの総論的な課題を含め、中長期的 に議論を行っていくことが 必要と考えられる。本考え方では、著作権法において定める権利 のうち、著作権(著作財産権)を中心に検討を行ったところ、今後、著作者人格権や著作隣接 権と AI との関係(俳優・声優等の声を含んだ実演・レコード等の利用と AI との関係等を含 む)において検討すべき点の有無やその内容に関する検討を含め、様々な技術の動向や、諸 外国の著作権制度との調和、他の知的財産法制における議論の動向なども見据えつつ、議 論を継続していくことが必要である。 ○ 上記のような継続的な検討と並行して、本考え方に示された AI と著作権に関する考え方に ついては、著作権制度に関する基本的な考え方とともに、広く国民に対して周知し啓発を図 ることが必要であり、文化庁においては、これらの内容について、一般社会に分かりやすい形 53 AI と著作権に関する検討は、著作権を含む包括的な検討の一部として行われているものを含め、各国にお いて進行中である(本小委員会第3回・資料4「生成 AI に関する各国の対応について」及び本小委員会第5 回・参考資料5「広島 AI プロセス等における著作権関係の記載について」参照)。この点に関して、米国にお いてはフェア・ユースとの関係を含む AI と著作権に関する複数の訴訟が進行中であり、また、欧州連合(EU) においては「デジタル単一市場における著作権及び隣接権に関する指令」(DSM 指令)において AI 学習デー タの収集を含むテキスト・データマイニングのための権利制限規定を設けることが加盟国に義務づけられてい るほか、AI に関する包括的な規制を設け、EU 域外の事業者への適用も一部盛り込む AI 規則案(AI Act) が立法過程にあることから、今後これらの動向が我が国に及ぼす影響等も踏まえつつ、検討を行うことが必要 となると考えられる。 43 での周知啓発に向けて、積極的に取り組むことが期待される。 ○ 生成 AI と著作権の関係については、政府における上記のような取組みとともに、民間の当 事者間において、生成 AI に関する著作物の利用についての適切なルール・ガイドラインの策 定や、生成 AI 及びこれに関する技術についての共通理解の獲得、AI 学習等のための著作 物のライセンス等の実施状況、海賊版を掲載したウェブサイトに関する情報の共有などが図ら れることが、AI の適正な開発及び利用の環境を実現する観点から重要である。この当事者と しては、AI 開発事業者・AI サービス提供事業者・AI 利用者及び権利者に加えて、個人のク リエイターやその表現の場となるコンテンツ投稿プラットフォーム事業者等による適切な関与 が期待される。 44 ○ 開催状況 第1回 令和5年7月26日(水) (1)法制度小委員会主査の選任等について【非公開】 (2)令和 5 年著作権法改正について (3)AIと著作権について 第2回 令和5年9月5日(火) (1)生成AIについての有識者ヒアリング (2)AIと著作権について 第3回 令和5年10月16日(月) (1)生成AIについての有識者ヒアリング (2)AIと著作権について 第4回 令和5年11月20日(月) (1)AIと著作権について 第5回 令和5年12月20日(水) (1)AIと著作権について 第6回 令和6年1月15日(月) (1)AIと著作権について 第7回 令和6年2月29日(木) (1)AIと著作権について (2)令和5年度法制度小委員会の審議の経過等について 45 ○ 委員名簿 麻生 あ そ う 典 つかさ 九州大学大学院芸術工学研究院准教授 今 いま 村 むら 哲 てつ 也 や 明治大学情報コミュニケーション学部教授 上野 う え の 達 たつ 弘 ひろ 早稲田大学法学学術院教授 澤田 さ わ だ 将史 ま さ し 弁護士 島 しま 並 なみ 良 りょう 神戸大学大学院法学研究科教授 水津 す い づ 太郎 た ろ う 東京大学大学院法学政治学研究科教授 茶園 ち ゃ え ん 成樹 し げ き 大阪大学大学院高等司法研究科教授 中 なか 川 がわ 達 たつ 也 や 弁護士 羽賀 はが 由 ゆ 利子 りこ 成蹊大学法学部教授 福井 ふくい 健 けん 策 さく 弁護士 間 ま 明 ぎら 宏 ひろ 充 みつ 東京地方裁判所(知的財産権部)判事 𠮷 よし 田 だ 悦 えつ 子 こ 大阪工業大学知的財産学部准教授 早稲田 わ せ だ 祐 ゆ 美子 みこ 弁護士 ※◎は主査、○は主査代理 (以上 13名) ○ ◎